がんと向き合い生きていく

入院していれば家族に会えないまま亡くなっていたかもしれない

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 患者は70歳で、20年前に直腸がんの手術を行い、左下腹部にストーマが設置されていました。そのストーマから出血があり、背中の痛みもあって、ある病院に入院され、輸血を受けました。ストーマの部分に腫瘤ができていて、そこからの出血でした。腫瘤は直腸がんの再発ではなく、新たにできた肺がんからの転移だったそうです。肺がんは背骨にも転移していました。痛みは放射線治療とモルヒネの内服で治まり、さらに抗がん剤治療を1クール行って退院しました。

■自宅療養だからこそ笑顔もあった

 1カ月後、2クール目のために入院しましたが、担当医から「体力がなく、2クール目は無理でしょう」と言われて自宅療養を勧められ、ケアマネジャーと相談の末、自宅に帰りました。

 奥さんはどうなるものかと心配しましたが、本人が「帰りたい」というので、本人の意思が一番大切と思い退院を選択したそうです。緩和ケア病院にも申し込みましたが、いつ空くか分からない状況でした。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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