感染症別 正しいクスリの使い方

【牛海綿状脳症(BSE)】日本を震撼させた「狂牛病」のいま

BSE感染の可能性があるとして、処分のため運びだされる乳用牛(C)共同通信社
BSE感染の可能性があるとして、処分のため運びだされる乳用牛(C)共同通信社

 感染症の原因として、これまで細菌やウイルスだけでなく真菌や寄生虫などについてもお話ししてきました。今回は、異常なプリオンタンパクによる病気(プリオン病)について取り上げます。

 プリオン病は感染性がある異常型プリオンが脳に沈着する結果、脳神経細胞の機能が進行性に障害される致死性の疾患です。ヒトにも動物にも感染する人獣共通感染症で、牛海綿状脳症(BSE)いわゆる狂牛病や羊のスクレイピー、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病などが知られています。今から20年ほど前でしょうか、テレビでは連日のようにBSEに感染した牛の映像が流れ、企業による牛肉偽装事件の発生も相次ぎ、BSEが発生したと報道された畜産農家や、目視検査を担当した女性獣医師ら5人が自殺するなど、非常に大きな社会問題となりました。

 BSEに感染してからの潜伏期間は2~8年で、平均5~5.5年といわれています。当初、ヒトへの感染性は否定されていたBSEですが、BSEとの関連性が指摘される変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の患者さんが1996年にイギリスで報告されました。その後、イギリス以外にも欧州各国、アメリカ、カナダで少人数ながら発病が認められています。日本では1例が報告されていますが、ほとんどの症例でイギリスの滞在歴があることがわかっています。

 イギリスを中心として大量発生したBSEは、感染した牛から作られた肉骨粉を原料とするエサが他の牛に与えられたことにより感染が拡大したと考えられています。日本や海外で、牛の脳や脊髄などの組織を家畜のエサに混ぜないといった規制が行われた結果、BSEの発生は、世界で約3万7000頭(1992年:発生のピーク)から7頭(2013年)へと激減しました。

 日本では、2003年以降に出生した牛からは、BSEは確認されていません。いまは安心して牛肉を食べられるようになっているのです。次回は同じプリオン病のひとつであるクロイツフェルト・ヤコブ病についてお話ししたいと思います。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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