スポーツ好きは注目 「ケトン体」接種でパフォーマンスが上がる

写真はイメージ(C)PIXTA
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 筋トレなどのパフォーマンスをアップしたければケトン体摂取──。その可能性を示唆する実験結果が2月、米国スポーツ医学会公式学術誌「Medicine&Science in Sports&Exercise」(オンライン版)に掲載された。研究を行ったのは、立命館大学スポーツ健康科学部の家光素行教授らだ。

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 ケトン体は、脂肪の合成や分解により肝臓でつくられる物質のこと。糖質制限や糖尿病などで脳や筋肉のエネルギー源である糖質が不足すると、代わりにケトン体が用いられる。このケトン体が運動のパフォーマンスを上げることは先行研究で証明されていた。しかし運動には、長距離走のような<持久系>、サッカーや400メートル走のように短時間に最大運動を繰り返す<短時間最大運動系>、筋トレなどの<筋力系>がある。

「先行研究では、どの運動パフォーマンスに効果があるのかは示されていませんでした。そこで2つの研究を行いました」(家光教授=以下同)

 ラットにケトン体とプラセボ(偽薬)をランダムに皮下投与し、血中濃度がピークになる10分後、<持久系(トレッドミル走)><短時間最大運動系(20秒間の全力運動と10秒間の休憩を繰り返す)><筋力系(尻尾におもりをつけて坂道を上る)>の各パフォーマンスを調べた。

 すると、短時間最大運動系と筋力系で、ケトン体群がプラセボ群に比べて有意に高い数値を示した。一方、持久系では有意差はなかった。

「着目したのは短時間最大運動系です。パフォーマンスが60.2%アップと顕著に増加。さらに、高強度運動のパフォーマンス低下の目安となる乳酸の産生が17%低いとの結果が出ました」

 続いて、安静時と短時間最大運動系後の骨格筋および心臓の代謝化合物を解析(メタボローム解析)した。結果、ケトン体群はプラセボ群と比べ、次の差が見られた。

・安静ではアセチルCoAの供給が増加
・運動後はクレアチンリン酸が有意に増加。TCA回路も活性


 アセチルCoAの供給が増加すると、TCA回路(別名クエン酸回路)が活性化する。この回路は疲労回復にも関係する。また、クレアチンリン酸は「ATP-CP系」(囲み参照)を活性化する。

 2つの研究が示すのは、ケトン体を摂取すると、速やかに短時間最大運動系、筋力系のパフォーマンスが上がる可能性があるということ。

「動物実験では皮下注射でしたが、経口でも同じ効果が得られると考えています。現状では、ケトン体単体のパウダーで飲みやすいタイプがないため、ヒトを対象にした研究は行えていません」

 ケトン体が豊富に含まれる食材は、ほぼない。しかし、ケトン体を増やす食事法はある。

「簡単に言うと、良質な脂質、タンパク質を増やし、糖質を控える。糖質の代わりに脂質が燃焼し、ケトン体ができ、エネルギーになります」

 ただし、基礎疾患や使用している薬剤がある人は医師に相談してから。

■筋肉に必要なATP

 筋肉を動かす上で欠かせないのが、ATP(アデノシン三リン酸)だ。

 これが分解される過程で生じるエネルギーを利用し、筋収縮が行われる。

 しかしATPはわずかしか筋肉内に貯蔵されておらず、ATPの再合成や産生なしには運動を続けられない。そのATPの再合成・産生の経路は大きく3つ。「ATP-CP系」「解糖系」「有酸素系」だ。

 ATP-CP系では、主にクレアチンリン酸というエネルギー源によってATP再合成・産生が行われる。解糖系のエネルギー源は糖質(グリコーゲン)。有酸素系では糖質や脂質がエネルギー源となる。

 運動の内容によって、経路が異なる。たとえば、重いバーベルを持ち上げるといった爆発的な力が必要な場合は、ATP-CP系。ダッシュしたり止まったりといった動きをするサッカーなどは解糖系となる。

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