老親・家族 在宅での看取り方

測定不能なほどの高血圧…でも、お金がないから病院にかかれない

写真はイメージ
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「要介護3で、3年間どこにも受診されていないようで、ケアマネさんもついてないんです」

 地域包括支援センターから、こんな連絡があったのは、この春のこと。高血圧症と言語障害を患う、内縁の夫と暮らす90歳の女性が在宅医療を始められました。

「なるほど。今、お薬は何も飲んでいないんですね」(私)

「はい。全く医者にもかかっていません」(夫)

「調子が悪くなる前はお話も普通にされていたんですか?」(私)

「はい。急に2週間前から手足が動かなくなっちゃった」(夫)

 どうやら容体が急変したとのことですが、病院ではなく、私たちのところへ紹介されて来られたのには事情があるようでした。

「血圧測定不能です。実際に200以上ありそうですね」(私)

 血圧は触診で200を超え、もはや測定も困難な状態でした。目を閉じてもすぐに開いてしまい、ご自身で脚を上げることもかないません。

「頭の脳の部分に何かが起きているという可能性が極めて高いですね」(私)

「ずっと血圧は高くて。突然何かが起きたんだと思います」(夫)

「普通の高血圧の数値をかなり超えています。命に関わることです。病院で画像の検査などしないといけないです。病院へは行けますか?」(私)

「それがダメなんだよ。お金もないし俺も体が不自由だし」(夫)

 別室で地域包括支援センターの方に話をお聞きすると、実は旦那さんは無年金で、患者さんの年金だけで2人は生活されており、以前かかった病院の支払いを分割で、最近やっと払い終わったばかりとのことでした。

「ご本人も病院に行かないっておっしゃっていて」(包括)

「でも、今のご本人に正常な判断を求めるのは極めて厳しいですよね」(私)

「そうですよね。先生に来てもらって、月1万円程度で診てもらえるなら払えるし、それがいいってことになったんです」(包括)

「限度額適用認定証もあった方がいいですね。訪問薬局さんも入ってもらいましょう。訪問看護さんはお金のことがはっきりしてからの方がいいかなと思います」(私)

「分かりました」(包括)

 医療機関等の窓口でのお支払いが高額で負担となった場合、後から申請することで自己負担限度額を超えた分が払い戻される「高額療養費制度」があります。

 しかし、最初のお支払い自体が難しい方もいる。そんな場合、限度額適用認定証を保険証と併せて医療機関等の窓口に提示すると、払戻金額を差し引いた金額、すなわち1カ月の自己負担限度額を窓口で払えばよい、という制度があるのです。

 ただし患者さんの場合は70歳以上の高齢者であることと、所得区分が規定よりも低かったことから、結果として「高齢受給者証」を窓口に提示するだけで自己負担は限度額までで済むことも確認でき、旦那さんにも納得していただきました。

 数日後、初日に行った採血検査の結果を受けて再び伺うと、幸いにも容体は安定しているご様子。

「採血結果です。思ったより臓器にダメージはなかったです。よくはないけど最悪のパターンではないです。なので、もうちょっと血圧の薬は増やすことができます。ただ、今後どのくらい介入していくかですよね。費用を考えて月1回などに絞って、今後状態が悪化するリスクはありますけどご承知いただいて」(私)

「それでお願いします」(夫)

 患者さんの抱える経済的事情に即したベターな療養を選択することもまた、地域のセーフティーネットである在宅医療に求められる重要な役割なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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