医療だけでは幸せになれない

「原因」と「結果」で考える社会の落とし穴…マスクの効果における病態生理と統計学的事実

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 現実に起こっていることは複雑である。多数の原因と、考えられる因子と、それに伴って起こってくる多数の結果が絡み合っている。そのほんの一部を取り出して、これが原因でこれが結果だということはたやすい。たやすいうえに、そういうわかりやすい話にすれば多くの人が信じやすい。

 話をマスクによる感染予防に戻せば、コロナの感染はエアロゾルだけでなく、飛沫感染も重要な要素である。不織布マスクがエアロゾルを通すとしても、飛沫の大部分を防ぐとすれば、その分の予防効果は十分期待できるだろう。あるいはマスクをすることで鼻や口を触ることが少なくなれば、手についた飛沫による感染が予防できるかもしれない。

 感染に関わる病態生理、メカニズムをひとつに絞って取り上げれば、いくらでもウソがつける。

 エアロゾルはマスクを通過するという情報は、個々の情報としては間違ってはいない。しかし、感染予防全体の中でどういう効果をもたらしているかは、この情報だけでは決してわからない。個々の因果モデルをいくら積み重ねたところで、全体像が見えてくることはない。予防効果全体という視点で見た時に、マスクをつけている人とつけていない人で、それぞれの感染率がどう異なるかという情報がどうしても必要だ。疫学的、統計学的な情報ということである。しかし、その統計学的情報にもさまざまな問題がある。そういう意味では、病態生理やメカニズムの情報はダメで、統計学的情報ならよいということではない。

 次回からは、主に医学に関する統計学的情報の正しさ、統計学的情報の問題点について、しばらくの間、取り上げていく。

3 / 3 ページ

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

関連記事