「口が大きく開かなくて右顎に激痛が走ってて」
こんな投稿が話題を呼んでいるのは、歌手の杉田あきひろさん(58)です。NHK「おかあさんといっしょ」の元うたのおにいさんで、ステージ3の喉頭がんを克服すべく闘病生活を送る中、今月18日、抗がん剤治療の副作用を吐露しました。その続きに驚かれるかもしれません。
「『親知らずかな』と思ってたら……歯茎から1センチ四方くらいの薄い骨が出てきて抜けたんです!」
抗がん剤の副作用として脱毛や嘔吐、食欲不振などは皆さんもご存じでしょう。実は、顎骨壊死(がっこつえし)もそのひとつで、この投稿はそれによると思われます。
全国がん登録罹患データによると、2019年に喉頭がんと診断されたのは5111人。15万人を超える大腸がんや12万人超の胃がんなどに比べると少ないものの、顎骨壊死が増えています。
日本口腔外科学会が全国調査を行ったところ、2016年は4797件で12年と比べて19倍に急増していたのです。杉田さんのようなケースは人ごとではなく、その対策を頭に入れておくことが大切でしょう。
喉頭がんや咽頭がんで手術をすると、声帯も切除して声を失うリスクがあります。その声を守るための治療が、放射線と抗がん剤を同時に行う化学放射線療法です。
抗がん剤も放射線も、顎骨壊死を起こす恐れがあり、さらに骨粗しょう症やがんの骨転移に使用されるビスフォスフォネート系薬剤でも顎骨壊死を生じることがありますが、それらの治療に加えて歯科的要因が重なるとより顎骨壊死を起こしやすくなります。
放射線の治療前に抜歯をすると、顎骨壊死の発生率は10%以下ですが、照射後に抜歯をすると、30%以上に上昇。なぜかというと、口の中の衛生状態と関係しているのです。
これらの治療をする患者は比較的高齢で、歯周病や虫歯などで歯が抜けやすいことがあります。口の中にはたくさんの細菌がいて、歯垢1ミリグラム中には10億個の細菌が。抗がん剤や放射線などの治療後は免疫力が下がるため、顎骨壊死が生じると歯周病菌などによって病状が悪化しやすいことが影響していると考えられます。
その点で抜歯が必要な人は、化学放射線療法などが始まる2~3週間前に抜歯をして、がんの治療が遅れないようにすること。
もうひとつは、事前に口腔ケアをしっかり受けておき、治療中も治療後も歯磨きなどを丁寧に行うことです。
口の健康が、がん治療に密接に関わっていることを覚えておいてください。
Dr.中川 がんサバイバーの知恵