がんと向き合い生きていく

かつての同僚が胃がんに…医者は自分の専門分野で亡くなることもある

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 研修医の研修状況を確認するため、グループのM病院を訪ねた時、元同僚のK先生に会いました。K先生とは、約20年間、一緒に胃がんの患者の治療にあたりました。

 標準治療など示されていない時代で、彼に無理を承知で手術をお願いし、治癒した患者はたくさんいらっしゃいました。K先生の手術の技術は院内外で定評があり、私は患者の胃がんに関することについて、ほとんどなんでも相談していました。

 K先生がM病院の研修医担当に栄転されたのが5年前です。それからしばらくして人づてに聞いたところによると、彼自身が胃がんになったといいます。しかも、肝臓に多数の転移があるというのです。にわかには信じられない話でした。

 久しぶりにお会いしたK先生は、いつものようにやや太った体形で、白衣のボタンが前に突き出ていました。「やあ」と、お互いに目と目が合います。なにか言いたげに思えましたが、私は普段と変わらずにあいさつしました。なんとなく、K先生の顔の皮膚が少し荒れているような気がしました。

1 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事