2週間といわれるが…「突発性難聴」治療開始のリミット

 耳の聞こえが悪くなったら「様子を見よう」などと悠長に構えていてはいけない。突発性難聴であれば、対処が遅れれば遅れるほど、聴力回復のチャンスが失われていく。西端耳鼻咽喉科・西端慎一院長に話を聞いた。

 突発性難聴は難病指定されている。原因ははっきりと分かっていない。
「難聴の前に風邪のような症状を訴える患者さんがいることから、ウイルス説もありますが、証明されていません。内耳血管の塞栓や血栓などによる循環障害説も、それだけでは説明できない点があります。原因不明なので、確実に治る治療法は確立されていません」

 文字通り「突発性の難聴」が起こったら、多くの場合は心配になって耳鼻咽喉科で診てもらおうとするだろう。しかし、症状の程度は患者によってさまざまだ。
「明らかに音が聞こえなくなる患者さんは少数派です。大抵は、片耳が詰まったような感じや、耳鳴り、違和感などの訴えで来院されます」

 症状が軽いので、しばらく様子を見ていたという患者もいる。しかし、突発性難聴はすぐに治療が必要な疾患だ。
「一般的に治療開始のリミットは、難聴を自覚してから2週間。しかし、治療開始は早いほどいい。突発性難聴は、3分の1が治療しなくても治り、3分の1が治療したら治り、3分の1が治療しても治らない、といわれています。〈治らない3分の1〉に入らないように、耳の聞こえの悪さが1日続いたら、すぐに耳鼻咽喉科を受診すべきです」

 まず、聴力テストが行われる。場合によっては、MRIやCTで内耳を調べる。突発性難聴と診断されたら、ステロイド薬投与を中心とした治療が開始される。さらに、漢方薬や神経を修復するビタミンBなどがプラスされることもある。

■低音障害型感音難聴は水分摂取が予防策

 ここで、もうひとつ頭に入れておかなくてはならないのが、耳の聞こえの悪さが「低音障害型感音難聴」によるものなら、治療で治る確率がもっと高くなるということだ。
「低音障害型感音難聴は低音が特に聞こえにくくなる疾患で、かつては突発性難聴とひとくくりにされていました。しかし、原因不明の突発性難聴と違い、低音障害型感音難聴は、内耳の中の内リンパ液が多くなりすぎて、内リンパを入れている袋の内リンパ腔が水ぶくれ(水腫)になるのが原因だと分かったのです」

 低音障害型感音難聴も、重度なら、突発性難聴と同様にステロイド薬を用いた治療が行われる。
「ただし、軽~中等症ならステロイド薬を使わなくても症状が改善します。内リンパ腔の水ぶくれを取る浸透圧利尿薬イソバイド、漢方薬の柴苓湯(さいれいとう)、五苓散(ごれいさん)などを中心にした治療になります。低音障害型感音難聴は治りがいいのですが、繰り返すことも珍しくありません。予防策として、水をたくさん飲んでもらいます。水分摂取が、内リンパ腔の水ぶくれに関係しているホルモンの分泌を抑えるからです」

 一度に水分を大量摂取するとかえって耳の聞こえが悪くなる。コップ1杯程度の水を1時間ごとに、1日2~3リットルを目標に飲むのが理想だ。
「低音障害型感音難聴は、短い時間内に良くなったり悪くなったりします。待合室で診察を待っている間に良くなるケースもあるほど。だから、1回の聴力検査では異常がわからないこともあります。耳の聞こえの悪さが何度もあれば、聴力検査も数回受けるようにしてください」

 聴力は、言うまでもなく生活の質(QOL)を保つ上で非常に大事。みすみす失わないようにしたい。

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