職場や自宅の独り言 「アウト」と「セーフ」の分かれ道

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
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〈えーと、今度はアレをやらなきゃ……〉
〈そうだったかあ。どうすりゃいいかな……〉

 最近、職場や自宅でつい独り言をつぶやいている。自分ではなくても、同僚や妻がぶつぶつ言っている。そんなシーンに思い当たる人は少なくないだろう。ひとりでしゃべっているのだから周囲はなんとなく気味が悪いし、ひょっとして病気なんじゃないか? と心配にもなる。独り言が多くても問題はないのか。都内20の企業で会社員の心身ケアを行っている精神科医の奥田弘美氏が言う。

「独り言が多い人というのは、主観的な感覚の内的イメージが豊富で想像力が豊かな人や、感受性が強くて感情が高ぶりやすい人に多いようです。ただ、どんな人でも、うれしい、悲しい、悔しい、緊張したなど、感情が高ぶったり興奮気味になったりした時に、内的な気持ちが言葉になって口に出やすくなります。一説によると、内的な気持ちの高ぶりを独り言として声に出すことで、精神の高揚を緩和してバランスをとったり、ストレスを解消する役割があるとされています」

■思考を整理する役割も

 また、頭の中で考えていることを口から音声として発し、それを耳に入れることでキチンと整理するために独り言をつぶやく場合もある。

「独り言には、気持ちを安定させたり、ストレスを発散させたり、思考を整理する働きがあり、ほとんどはこれに当てはまります。その状況に合致した独り言であり、〈思わず口に出たけど、周りに人がいることに気づいたらすぐにやめる〉ことができるタイプなら、放っておいても心配ありません」(奥田氏)

 テレビを見ながら、〈あーっ!〉とか〈よしっ!〉などと叫んだり、〈そうじゃないだろ〉と話しかけたりするのは気にしなくていい。〈よしいける〉〈うん、いい感じ〉といった自分を鼓舞するようなポジティブな独り言も問題ない。

「気をつけたいのは、〈ああ、どうにかして〉とか〈はあ……もう限界〉といったネガティブな独り言が増えた場合です。ストレスがたまっているサインなので、意識的に休息やリラックスを心がけてください。周囲の人がそうなら、ゆっくり休ませてあげたり、悩み事や不満がないかを聞いてあげるのがいいでしょう」(奥田氏)

 もっと“危ない”病的な独り言もある。

 まったく状況に合わない独り言を繰り返したり、周りに人がいても気にせずぶつぶつ言い続ける。〈死んじまえ!〉とか〈殺すぞ!〉といった異常に攻撃的な独り言や、周囲に誰もいないのに誰かと会話しているようなケースは要注意。統合失調症、重度の自律神経失調症、うつ病、双極性障害、発達障害といった病気の可能性がある。

「高齢者で独り言が増えた場合は、認知症も考えられます。脳がうまく働かなくなり、記憶だけでなく、思考、見当識、言語、判断などさまざまな認知機能に障害が出るので、独り言が多くなるケースがあるのです」(都内クリニックの内科医) そうした病気の場合、本人は病気だと自覚していないことが多い。

 無理に病院に連れていこうとすると拒絶されるので、〈よく眠れるように医者に診てもらおう〉〈疲れがたまっているみたいだから、ちょっと病院に行ってみよう〉など、別の症状を改善するために受診を勧めるようにするのがいい。

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