薬で治療だけじゃない 手術で治る「内側側頭葉てんかん」

日本ではあまり行われない/(C)日刊ゲンダイ
日本ではあまり行われない/(C)日刊ゲンダイ

 てんかんは、脳の神経細胞の一部が異常な電気発射を行うことがきっかけで、発作を繰り返す病気だ。抗てんかん薬の服用が治療の中心になるが、中には手術で治るてんかんもある。「内側側頭葉てんかん」だ。東京医科歯科大学脳神経機能外科学分野・前原健寿教授に聞いた。

 内側側頭葉てんかんは大脳の側頭葉の内側(海馬、扁桃体)に異常な電気発射が起こるてんかんだ。症状は「意識を失う」。これが30秒ほど続く。手足や口元をもそもそ動かすこともある。一般的には、内側側頭葉てんかんは「動作が止まり、一点を見つめながらボーッとしているだけ」というように周囲に映る。

「見た目にはてんかん発作と分かりにくい。しかし、治療せずにいると、思わぬ事故を招いてしまうことがあります。たとえば、料理している時に発作を起こすと、その間は意識がないので、ガスの火で手が燃えていても気がつきません。入浴中に発作を起こすと、溺死の危険があります」

 運転中に意識を失うこともあり、交通事故のリスクも高まる。さらに、てんかん発作を繰り返すと、脳のダメージが加わり記憶力が低下したり、うつ状態になることもある。内側側頭葉てんかんでない人の8倍、突然死のリスクが高いという指摘もある。

 だから、早期の的確な治療が必要なのだが、内側側頭葉てんかんは、その選択肢のひとつに、異常な電気発射が起きている海馬や扁桃体を切除する手術がある。

「てんかんは一般的に、2剤までの抗てんかん薬の服用で患者の7割が症状を抑えられます。しかし、内側側頭葉てんかんで海馬硬化がある場合は薬が効きにくい。その半面、手術で根治する患者が多い。世界的なデータでは、7割の内側側頭葉てんかん患者が完全に発作が治まり、著効が2割、改善なしが1割です」

 ところが、日本では「てんかんには手術で治るものもある」ということが知られていない。

「手術適用と思われるてんかんは、年間1500~2000件くらいあると考えられていますが、実際の手術件数は500~600件ほど。欧米と比べて圧倒的に少ない」

 理由は、てんかんをきちんと診られる専門医が少ないことが挙げられる。

 都道府県によっては、だれもいないところもある。

「手術うんぬん以前に、てんかんの診断や抗てんかん薬の処方を間違えているケースも少なくありません。当院に来る難治性てんかん患者(抗てんかん薬2剤で効果がない)の2割は、てんかんとは別の病気です。もしかして……と思ったら、まずはてんかん専門医を受診してください」

 ただし、内側側頭葉てんかんであっても、患者全員に手術が効果的とはいえない。ビデオ脳波検査やMRI、PETなどの画像検査を行い判断する。また、手術後も抗てんかん薬の服用を続けなくてはならない患者もいる。

 東京医科歯科大学では、手術を受けた内側側頭葉てんかん患者40人のうち、33人は発作が止まり、14人が薬もやめられたという。

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