切手大が1000倍に…ヤケド治療「自家培養表皮移植」のスゴさ

ストーブにも注意(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ
ストーブにも注意(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 ヤケド(熱傷)は冬に多い。重症熱傷の場合、自分の皮膚を培養して移植する「自家培養表皮移植」が注目を集めている。知っておくべきことを聖マリアンナ医科大学形成外科学教室・相原正記准教授に聞いた。

 人間の皮膚は、一番外側から表皮、真皮、皮下脂肪組織、筋肉という層になっている。熱傷によって「真皮まで損傷している」部分と、「皮膚の全層が損傷している」部分の合計が体表面積の30%以上(大人の場合)を占めると重症熱傷で、たいてい皮膚移植が必要だ。

 皮膚移植というと、熱傷せずに残っている部分の皮膚を取って移植する方法が一般的だが、熱傷の範囲が広いと、本人の皮膚だけでは足らなくなる。なんとか足りる場合でも、移植するための皮膚を取ると、その痕が残る。洋服で隠れるようならいいが、目立つ場所だと患者の精神的な負担になる。そこで行われるようになったのが、自家培養表皮移植だ。

「ハーバード大学で開発された方法を、当院が日本で初めて臨床応用に成功して30年ほどになります。2009年1月に重症熱傷に対して保険適用になってからより広がり、今では国内100カ所以上で行われています」

■跡目立たず、拒絶反応なし

 自家培養表皮移植はまず、熱傷していないところから、切手ほどの大きさの皮膚を取る。取った皮膚は自家培養表皮を行う会社に送られ、そこで表皮の細胞を分離・培養。切手大だった皮膚が、3週間後には1000倍の大きさになるので、それを熱傷部分に移植する。

「移植するのに取る皮膚が切手大と小さいので、痕が目立ちません。移植する本人の細胞から作られた皮膚ですから、拒絶反応がないのも大きい」

 しかし、デメリットもある。培養した表皮は感染に非常に弱く、「培養したけど使えなかった」ということがある。真皮のない部分では、移植してもくっつきにくい。薄くもろいので、背中のように圧がかかる場所や関節のようによく動く場所には適していない。

「さらに、完全な皮膚ができるわけではありません。『元通りになる』と誤解している患者さんがいますが毛や汗腺などはできません。移植したところからは汗をかかなくなり、その分、残った本来の皮膚から汗が多く出るようになります」

 自家培養表皮移植で保険適用になるのは、前述のとおり、重症熱傷に対してだが、聖マリアンナ医科大学では、重症熱傷以外のケースにも自家培養表皮移植を行っている。

「交通事故など外傷でできた皮膚の欠損や瘢痕(皮膚が赤く盛り上がる、いわゆる傷痕)、白い斑点ができる白斑、入れ墨などです。特に白斑は、かなりきれいになります。重症熱傷で自分の皮膚の移植を受けたけど、見た目などの問題から後に自家培養表皮移植を希望する人もいます。いずれも自費診療になり、費用は100万円を超えます」

 黒褐色の大きいあざができる巨大色素性母斑、ちょっとした刺激で皮膚や粘膜に水膨れやただれができる表皮水疱症についても自家培養表皮移植が応用される。これらは、保険適用拡大について治験がほぼ終了したところだという。

関連記事