風邪と酷似する【肺気腫】 進行次第では呼吸不全や心不全も

風邪でもないのに咳と痰
風邪でもないのに咳と痰(C)日刊ゲンダイ

 東京・北区に住み、広告代理店の営業部に勤めている古澤徹さん(仮名、59歳)。身長172センチ、体重61キロ。年1回の健診では血圧値も正常で、生活習慣病とは無縁な生活を送ってきた。

 ところが昨年の夏ごろから、風邪もひいていないのに咳や痰が出やすくなった。地下鉄の階段を上り下りする時も、わずかに息切れがする。

「私は30年来の愛煙家で、1日平均30本ぐらい吸っていました。咳や痰が出るのは多分、このたばこのせいかなと思っていたんです」

 やがて秋になると、咳や痰が激しくなった。電車に乗っている時、咳が止まらないことがしばしば。痰が喉に詰まり、無理に吐き出そうとして、周囲の人たちが凝視するほどの大声を出していた。ところが痛くもかゆくもない。

「だから、病院に行くほどの病気でもないだろうと思っていました。それが、たまたま散髪屋で古い週刊誌をめくっていた時、俳優の宇津井健さんが肺気腫が原因で亡くなったという記事を目にしたのです。肺気腫などという病名はこの時初めて知りましたが、症状がどうも私と似ているなと感じ、自宅近くの総合病院を訪ねたわけです」

 担当医に症状を訴え、「胸部画像診断(CT検査)」と「肺機能検査(スパイロメトリー)」を受診した。

 通称「スパイロ検査」とは、肺活量計の筒を口にくわえ、息を吸い込んだ後、出来るだけ早く息を吐き出す。吸ってから吐き出すまでの呼気量を測定するもの。結果、古澤さんは「3期高度」の肺気腫と診断された。

 肺気腫の病気分類には「1期軽度」から、息切れのひどさで生活に支障を与える「4期極めて高度」の4段階がある。古澤さんは、症状だけ見れば咳、痰程度と軽症だったが、実際は重症だった。

 肺気腫の症状は風邪に似ているため、つい見過ごされて治療に後れを取るケースも少なくない。しかし、進行次第では呼吸不全や心不全を起こすという命に関わる怖い病気なのだ。

 広げるとテニスコート1面ぐらいの大きさになるという肺には、「肺胞」といわれる無数の小さな風船のような部屋がある。この肺胞が破壊されると、呼吸に支障を来す。壊れてしまった肺胞は元に戻らないため、膨らんだままの風船をたくさん抱え込んでしまう状態になる。これが肺気腫だ。

 治療は手術ではなく、対症療法と保存療法が行われる。古澤さんは約1カ月間入院し、点滴静脈注射による水分補給や栄養補給のかたわら治療に努めた。

「基本は肺気腫の悪化を予防することだそうで、残った肺組織を保存、活用するという治療でした。どんな薬かよくわかりませんが、気管支拡張剤の投与などを受けましたね。もちろん、すぐに禁煙して退院後は一本も吸っていません」

 咳や痰は止まった。ただ、それでも古澤さんはたばこに未練があり、目下、他人が吸う副流煙で我慢をしているという。

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