がんを抱えている患者さんの心臓を手術する際、最も気を付けている点は、その患者さんが「もう二度と手術は受けたくない」という気持ちにならないようにすることです。その後に控えているがんの手術を考慮して、患者さんに「こんなものなら、もう1回手術を受けてもいい」と思わせなければいけません。
野球でいえば、先発投手として試合に臨み、打者1人を3球で打ち取りながら五、六回まで抑えていく感じでしょうか。時には、1球でゴロを打たせて片づけていくパターンを続けます。ひたすら淡々と試合を進め、「はい、次どうぞ」とリリーフにマウンドを託す感覚です。そうすると、患者さんはすごくスムーズに次のがん手術に進めるのです。
そうした手術を実現するためには、無駄な時間はかけられません。処置に取り掛かったら、後戻りすることもできません。手術の前に、自分が思い描いていた“図面通り”にミスなく進めることが求められます。だからこそ、心臓外科医としては一番やりがいがある手術ともいえるのです。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」