天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

がん患者の処置は次の手術を想定する

 がんを抱えている患者さんの心臓を手術する際、最も気を付けている点は、その患者さんが「もう二度と手術は受けたくない」という気持ちにならないようにすることです。その後に控えているがんの手術を考慮して、患者さんに「こんなものなら、もう1回手術を受けてもいい」と思わせなければいけません。

 野球でいえば、先発投手として試合に臨み、打者1人を3球で打ち取りながら五、六回まで抑えていく感じでしょうか。時には、1球でゴロを打たせて片づけていくパターンを続けます。ひたすら淡々と試合を進め、「はい、次どうぞ」とリリーフにマウンドを託す感覚です。そうすると、患者さんはすごくスムーズに次のがん手術に進めるのです。

 そうした手術を実現するためには、無駄な時間はかけられません。処置に取り掛かったら、後戻りすることもできません。手術の前に、自分が思い描いていた“図面通り”にミスなく進めることが求められます。だからこそ、心臓外科医としては一番やりがいがある手術ともいえるのです。

2 / 3 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。