天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

左心耳縫縮術が脳梗塞を防ぐ

 2年前、狭心症を患っておられた天皇陛下の「冠動脈バイパス手術」に携わらせていただいた時、心臓を動かしたままの状態で行う「オフポンプ手術」を選択したことは、先週お話ししました。

 その際、実はもうひとつ「左心耳縫縮術」という手術を受けていただきました。心臓の左心房の上部にある左心耳という袋状の突起物を糸で縫い縮め、血液の行き来をなくしてしまう手術です。これを行えば、術後に脳梗塞を起こすリスクを格段に減らすことができます。

 脳梗塞には、心原性脳梗塞というものがあります。心臓の中にできた血栓が移動して脳血管をふさいでしまうことで起こり、その血栓は75~90%が左心耳で形成されることがわかっています。左心耳縫縮術さえ行えば、それを防げるのです。

 さらに、手術中に心房細動を起こす可能性も予測できました。心臓が細かく不規則に1分間に250回以上も収縮を繰り返すもので、これが起こると左心耳内で血流がよどみ、血栓ができやすくなります。普段は不整脈がなくても、高齢になるだけで発症する人もいます。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。