独白 愉快な“病人”たち

落語家 林家木久扇さん(77) 喉頭がん

林家木久扇さん(C)日刊ゲンダイ

 2カ月後の8月15日にはがんが消滅。とはいえ、問題は声でした。半年後に出る人もいるけれど、声を失う場合もある。医師はがんの治療を目的にしているので、声の出る治療法はありません。

 レギュラー番組の「笑点」(日本テレビ系)は9回も欠席という形になり、私のいない座布団が映るたび、だれかに席を取られるんじゃないかと不安でね。たとえ息子の木久蔵が代わったとしても、芸の上ではライバルですから喜べません。休んでる間も、生きていたことの証しを残しておかねばと、執筆、イラスト、半生インスタントパスタ「木久扇ナポリタン」の商品開発と、精力的に仕事をこなしました。

 治療から3カ月目。その日は突然やってきました。「お父さんおはよう」とおかみさんに言われて、「おはよう」と返したら声が出た。いやぁ、うれしかった!

 その翌日、出演が前から決まっていた「メレンゲの気持ち」(日テレ系)の収録で肉声をお届けでき、そしてすぐ「笑点」に復帰しました。実は、「メレンゲ」も「笑点」も同じプロデューサーで、「師匠の声が出なくてもいいから、(息子の)木久蔵を通訳にテレビに出してみよう」とチャンスを与えてくれていた。喉頭がんで“3カ月目で声が出た”なんて他に例はないぐらい早いそうですが、テレビ出演という約束が私の体のスイッチを押してくれたようです。

3 / 4 ページ