医療数字のカラクリ

がん患者の“生存率” 誰を対象に計算すればいいのか?

「生存率」を正しく調べるのは実は大変です。明らかなインチキでなくとも、いろいろな問題があって評価が難しいのです。

 ある抗がん剤治療を行った進行がんの患者の1年後の平均生存率を報告している研究を例に考えてみましょう。

 当初、100人の進行がんの患者さんが治療を受けることになりました。このうち50人が抗がん剤の治療を最後まで受けることができ、そのうち50%の25人が1年後に生存していたとしましょう。ただし、最後まで続けることができなかった残りの50人では20%の10人しか1年後に生き残っていなかったとしたらどうでしょう。

この際の生存率はどのように計算すればいいのでしょうか。抗がん剤の治療を終了した50人だけで計算するのがいいのでしょうか。治療を受ける予定であった全員で計算するべきだったのでしょうか。

 抗がん剤の治療を行った場合の生存率ですから、抗がん剤治療を最後まで受けた人で生存率を計算するのがいいように思うかもしれません。しかし、治療を開始する前に最後まで治療が続けられるかどうかわかりませんから、治療を最後まで終了できた人たちだけで計算するのでは、生存率を過大に評価する面があります。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。