「温泉の力」で健康に 週1入浴で“悪玉コレステロール”減

「行きつけ温泉」がダメなら「銭湯」がある
「行きつけ温泉」がダメなら「銭湯」がある(C)日刊ゲンダイ

 先月発表の2015年の国勢調査速報によると、ついに65歳以上が総人口の4分の1を超えたという。介護される世代やその予備群はもちろん、介護する側の世代もこの話を身の引き締まる思いで聞いたのではないか。この先、頼りになるのは自身の健康。そこで注目したいのが「温泉の力」だ。食事や運動と違って、意識することなく自身の健康をアップさせてくれる。

「温泉にはいくつもの良い作用があります。例えば温熱作用です。血液やリンパ液の循環が良くなることでさまざまな症状を改善するほか、痛みも軽減し、関節の可動域を拡大してくれます。水圧や浮力の作用も見逃せません。心臓のポンプの役割を強め、足などの下半身に滞った血液を心臓に送り返してくれます。温泉成分の作用もあります。炭酸泉や硫化水素泉などによる血管拡張効果は医学的にも証明されています」

 こう言うのは日本で数少ない温泉療法専門医で東京都市大学人間科学部の早坂信哉教授だ。実際、その効果は抜群で、週1回以上温泉入浴の習慣がある男性は、そうでない男性に比べ、動脈硬化や脳卒中のリスク要因とされる「悪玉コレステロール値」が低いことが確認されている。65歳以上では温泉入浴の習慣がある女性は、そうでない女性に比べて「善玉コレステロール値」が高いこともわかった。いずれも早坂教授が静岡県熱海市の特定健康診断を受けた男女1092人のデータを解析、5月の日本温泉気候物理医学会・学術集会で発表したものだ。

「習慣的に温泉入浴している人のコレステロールの変化をこれだけの人数で調べたのは初めてのことです。まだまだ研究すべきことはたくさんありますが、長期の温泉入浴の習慣が体に良いことは間違いありません」(早坂教授)

 温泉地ではかつて個人の経験や言い伝えにより「○×に効く」などのいいかげんな表示がなされていたが、環境省により、エビデンスに基づいた表示がなされるようになった。例えば、2014年の改定ではさまざまな研究論文からそれまで禁忌だった妊婦の「温泉入浴」がOKに変わった。

■「銭湯」でもOK

 しかし、温泉でもっとも重要なことは、「温泉をキッカケにしたコミュニケーション」と早坂教授は言う。

「温泉地のなかには健康増進のための公共入浴施設を活用することで、目に見えて医療費を減らした地域が複数報告されています。温泉そのものの効果もさることながら、広い浴槽で気心の知れた人たちとのコミュニケーションやそこまでの歩き、外出のための服装への配慮などが健康を増進させているのです」

 意外なことだが、温泉地でも温泉を自宅に引いたり、共同温泉施設を利用している人は半分に満たないとの報告もある。温泉地での平均寿命が必ずしも高くないのは温泉の恩恵を受けない人が大勢いるからだろう。

 都会に住んでいる人でもお金があれば、ドライブがてら週1回程度でも温泉地に、「行きつけ」の温泉を決めて通う手もある。気に入れば、定年後に温泉地に引っ越すことも可能だ。それができない人はどうすればいいのか。

「近くの銭湯を利用することです。地域で言葉を交わす人ができれば、精神的にも落ち着くはずです。広い浴槽の方が狭い浴槽に比べてリラックスしたときに出る脳波であるα波が多く出るとの報告もあります。しかも、いまの銭湯は人工炭酸泉をつくり出しているところも多く、沸かし湯以上の血管拡張作用が期待できます」(早坂教授)

 人前で裸をさらし、メタボのわが身と他人を見比べることは、健康について考えるキッカケにもなる。ボクサーのようにひとり黙々と運動をこなし、食事制限に苦しむよりも、「温泉の力」に頼る方がよほど健康的だ。

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