年を取ったらクスリを見直せ

加齢とともにリスク上がる心房細動治療薬との付き合い方

 通常よりも「脈がゆっくり、速い、不規則である状態」は不整脈といわれ、年齢とともにリスクが増えていきます。

 不整脈の一種である心房細動の心拍数調節のために使用されることがある薬がジギタリス製剤の「ジゴキシン」です。心臓の収縮力を高めたり、拍動速度やリズムを調節する作用があります。

 一般的に、薬は体の中に吸収された後、肝臓や腎臓の機能によって体の外に排泄され、ジゴキシンはそのほとんどが腎臓から排泄されます。しかし、多くの高齢者は、加齢とともに腎臓の機能が低下しています。つまり、ジゴキシンは「体の中にとどまりやすくなる」ため、効果過剰による「中毒症状」に注意する必要があるのです。

 ジゴキシンの過剰投与によって起こることがあるジギタリス中毒は、吐き気、嘔吐、不整脈などの症状が表れます。実際に、介護施設入所者における心不全患者についての検討では、「26%の患者に潜在的なジギタリス中毒の可能性がある」という報告もあります。

 以前からずっと服用していたとしても、高齢になるにつれて体内の水分や脂肪の量が変わるため、副作用のリスクは上昇します。副作用を防ぐためには、消化器・神経系の自覚症状の観察、心電図、体内の薬の濃度(血中濃度)の測定などを、定期的に行う必要があるのです。

 高齢者薬物療法のガイドラインでは、ジゴキシンは「1日0.125ミリグラムを超える使用は控えること」が重要とされています。年齢や状態によって、注意すべき点が多いといえるでしょう。

 しかし、だからといって急に薬をやめてしまうとさらに危険です。服薬を急に中断すると、心臓の動きが弱くなり、心不全の状態になる可能性があります。

 薬は安易に中止せず、医師や薬剤師の指示の下で適切に使用することが大切なのです。

中尾隆明

中尾隆明

1985年、愛媛県生まれ。愛媛県立南宇和高等学校を経て岡山大学薬学部を卒業。2008年からこやま薬局(岡山県)で管理薬剤師を務め、現在は企画運営部主任として各店舗のマネジメントを行っている。8月に著書「看護の現場ですぐに役立つ くすりの基本」(秀和システム)を発売。