がんと向き合い生きていく

「ステージ4」でも長く生きられる患者はたくさんいる

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ
種類や悪性度によってさまざま

 当時48歳だったAさん(男性)は、ずっと健康で、それまで病院に行くことはほとんどありませんでした。しかし、1カ月ほど下痢、便秘、腹痛などの症状を繰り返したため、B病院を受診。検査を受けたところ、大腸がんで肝臓に転移があり、「ステージ4」と告げられました。すぐに手術を受けて大腸がんは切除できたのですが、肝臓への転移は数が多く、すべてを取りきることはできませんでした。

 手術後に職場復帰したAさんは、上司や同僚に病状を説明し、治療のための休暇や勤務時間をやりくりするなどの協力を得ることができました。

 薬剤での治療は2年にわたって行われ、肝臓の転移は、超音波検査でがんとわかるところをラジオ波で焼灼しました。幸い、2年後には検査でがんは確認できないほどになりました。定期的にB病院で検査を受け、5年後も再発は見られていません。

 がんの種類によって異なりますが、多くの医師はこう言います。

「○○がんです。ステージ4で治癒するのは難しいです」

「ステージ4」とは、がんが発生した場所以外に遠く離れた場所へ転移している場合につけられる病期です。ですから、さらに病気が進み、積極的な治療ができない状態となれば「末期がん」と呼ばれ、命に関わります。ただ、がんの種類によって、または同じがんでも、がん組織の悪性度によっては進行や病状が異なります。とても早く進むがんもあり、進行がゆっくりしたものもあります。つまり、「ステージ4」だからといって、すべての患者さんの命が短いというわけではないのです。

 効果的な薬も少なかった20年以上前のことですが、大腸がんが肝、肺、脳に転移したものの、そのたびに手術で切除し、8年以上生きられた方もいらっしゃいます。今は有効な薬剤がたくさん出現し、放射線治療も進歩しています。「大腸がんステージ4」と診断されても、5年以上生きられる患者さんはたくさんおられるのです。

 都立駒込病院ホームページの大腸外科の紹介では、「大腸がんは肝転移があっても根治し得る可能性のある疾患です。切除不能の肝転移でも、分子標的治療薬と全身化学療法の併用により縮小化を図り、改めて切除することによって良好な成績を上げています」と記載されています。「肝転移があっても根治し得る」としているのです。

 ジャーナリストの鳥越俊太郎さんは、「大腸がんステージ4」(肝、肺転移と報道されています)を克服され、昨年は東京都知事選挙に出馬されました。その際、テレビで拝見した鳥越さんの第一声は「がん検診100%」でした。きっと、長かったがんとの闘いを思い出されて、そうした公約を掲げたのだろうと推測されます。

 乳がんの「ステージ4」も多彩です。乳がんでは骨転移があればステージ4となりますが、骨転移したからといって直接命に関わるわけではありません。放射線治療やホルモン療法によって5年以上生きられる患者さんはたくさんいらっしゃいますし、その後、治癒されたケースもまれではありません。

 大腸がんや乳がんだけでなく、私はさまざまながんで「ステージ4」と診断された多くの患者さんの最期をみとりましたが、一方で、長年生きられた方、治癒された方もたくさん診させていただきました。転移の程度にもよりますが、「ステージ4」=「末期がん」ではないのです。ステージ4だから諦めるというのはまだ早いのです。

 ステージ4と告げられ、覚悟はしても、誰しも「生きたい」のは当然です。医学は日進月歩です。生きていればこそ、ということもたくさんあるのです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。