明細書が語る日本の医療

肺がん手術を受けられる患者は意外と少ない

男性には厳しい状況が続く
男性には厳しい状況が続く(C)日刊ゲンダイ

 昨年10月、厚生労働省がレセプト(診療報酬明細書)情報・特定健診等情報データ(NDBオープンデータ)を公開しました。2014年度に全国の病院・診療所で行われた手術件数や検査件数が掲載されています。今回の連載では、これらのデータを使って日本の医療の実態に切り込んでいきましょう。まずは肺がん手術です。

 肺がんは臓器別死亡数でトップ。NDBの数字から治療の実態を垣間見ることができます。

 肺がん手術には、大きく開胸手術と胸腔鏡手術があります。開胸手術は、脇の下を長さ15センチから20センチほど切り開き、肋骨の隙間を押し広げて肺に到達するというもの。対する胸腔鏡手術は、脇の下に直径1~3センチほどの穴を数カ所あけ、そこからカメラと手術器具を差し込んで、映像を見ながら肺切除を行うというものです。切除片は穴から引き出します。

〈表〉は肺がん手術件数と、新規肺がん患者数、死亡数をまとめたものです。データ収集年次・年度が微妙に異なっていますが、細かいところは目をつぶることにします。

■男性には厳しい状況が続く

 2012年の1年間に見つかった新規患者は11万3000人ほど。女性1に対して男性2.1という割合です。また2014年の1年間の死亡数は約7万3000人、男性のほうが約2.6倍も多く亡くなっています。

 手術件数は2014年度の数字。開胸手術が約8000件だったのに対し、胸腔鏡が約3万9000件と、全肺がん手術の83%が胸腔鏡手術で占められています。

 肺がん手術を受ける人の大半は新規患者、しかも2度、3度と肺を切る人はほとんどいません。

 もっとも注目すべきは、新規患者数に対して手術件数が少ない点です。2014年度の新規患者数は、過去の増加率から計算して男性約8万人、女性はほとんど変わらず3万6000人、合計11万6000人と推計できます。すると実際に手術を受けた(受けることができた)人は40%、しかも男性ではわずか35%にすぎなかった計算になります。

 残りの60%(男性では65%)の多くは、遠隔転移や体力的な理由などで、手術ができない状態だったことになります。

「肺がんは治る病気」と言われるようになりましたが、特に男性には、まだ厳しい状況が続いているのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。