有名病院 この診療科のイチ押し治療

【声帯ポリープ】教師、歌手、アナウンサーが全国から殺到

ボイスクリニック室長の田村悦代教授
ボイスクリニック室長の田村悦代教授(提供写真)
東海大学医学部付属東京病院/耳鼻咽喉科ボイスクリニック(東京都渋谷区)

「声帯ポリープ」や「声帯結節」ができると声がかれる。

 同科は、音声障害と喉頭疾患を主な対象とする「ボイスクリニック」を併設する。

 来院する患者の8割は全国の他施設からの紹介患者だ。声帯にできる病態について、同科医長でボイスクリニック室長の田村悦代教授がこう言う。

「声帯ポリープは、年齢や性別はあまり関係なく、カラオケなどで大声を出して声帯の血管が破れてふくれた“血豆”のようなもの。声帯結節は、ほとんどが成人女性と子供にできます。慢性的によく声を使うことが原因で声帯に“タコ”ができるのです」

 喉仏の中にある左右のヒダが「声帯」で、発声のときはヒダが閉じ、空気がぶつかり振動することで声が出る。その振動は、成人男性では毎秒100回、成人女性では毎秒200回にも及ぶ。

 そのため、声帯結節は声帯の両側の中央にできる。一方、声帯ポリープは1個のことが多く、できる場所も一定ではないという。

■「手術」と「ボイスセラピー」を行う音声障害の専門施設

 声がかれて困るのは、声を職業とする人――教師や保育士、歌手、スポーツインストラクター、アナウンサー、声優など。こうした患者が全国から集まるのは、音声障害の治療の豊富な実績があるからだ。治療の主体は病変を切除する「喉頭顕微鏡下手術」。田村教授がこれまで手掛けてきた手術数は2000例以上に上る。

「声帯ポリープや声帯結節は発声習慣に起因することが多い。元の声を取り戻すための治療法としては手術が5割、術後の創傷治癒や発声習慣の矯正が5割と考えています。したがって、良好な術後結果には、手術と術後のリハビリテーション(音声治療)が重要です。この両輪をきちんとできることが、音声障害の専門施設だと思っています」

 手術は前日入院で、全身麻酔で行う。喉頭鏡という器具を口の中に入れて、顕微鏡で拡大して鉗子やメスで病変を切除する。切除にかかる正味の時間は5~10分程度。手術時間が短いため、簡単な手術に思われがちだが、長さ1・5センチ程度しかない声帯にできた1ミリにも満たない病変を過不足なく除去し、元の声を取り戻す繊細な手術になる。

「声帯の手術は、声帯の構造を熟知していないと難しい。最も大事なのは過剰切除をしないこと。一度切除しすぎると、もう元の声には戻りません」

■術後3~4週間で歌える

 術後、4~7日は声を出してはいけないが、手術翌日からリハビリテーションが始まる。入院は4泊5日。この期間に喉の健康や正しい発声習慣を身に付ける「声の衛生」を学ぶ。

 そして、声が出せるようになったら再診時に喉に負担をかけない声の出し方などの音声訓練を行う。これらの音声治療は医師が処方して、音声障害に精通している言語聴覚士が担当する。大声を出したり、歌ったり元の活動ができるようになるのは、術後3~4週間後という。

 また、同クリニックは反回神経麻痺などによる音声障害に対して、口の中の脂肪を声帯に移植する「声帯内自家脂肪注入術」を国内で唯一行っている施設でもある。

「声がれは、喉頭がんの可能性もあります。加齢による声がれなら、手術せずに音声治療だけでも改善できます。声で悩んでいたら、気軽に相談していただきたいと思います」

■データ

 本学医学部の2番目の付属病院。1983年開設。
◆スタッフ数=常勤医師2人、非常勤医師1人、言語聴覚士1人
◆音声障害の年間初診患者(2015年度)=710人
◆音声外科手術数(同)=283件(うち喉頭顕微鏡下手術238件)