がんは遺伝子の“経年劣化”により生じる病気で、高齢化で急増していますが、患者は3人に1人が64歳以下の現役世代。現役世代で亡くなる方は、実に半数の死因ががんです。現役世代のがん対策が大切な理由が、ここにあります。
そんな中、興味深いニュースがありました。大手商社の伊藤忠は、がん患者の治療と仕事の両立をサポートするための強化策を発表。それによると、国立がん研究センター中央病院と提携。会社の負担で40歳から5年ごとにがん検診を実施。早期発見や早期治療に結びつけるほか、テレワークや時短勤務などの勤務制度を整えて、治療と仕事の両立をサポートするそうです。
伊藤忠の支援策は、働き盛りのがんの実情をとらえています。その理由をもう少し掘り下げてみましょう。
仕事をしているがん患者のうち、4人に3人は継続を希望。ところが、3人に1人は離職に追い込まれています。そのうち4割は治療が始まる前に辞職。病気や薬の副作用のつらさを感じているわけでもなく、告知のショックで会社を去っているのです。
残りの6割は、まさに治療と仕事の両立に苦しんだ方々。早期がんを除くと、復職までに1年近くの時間がかかるため、その間に職場での肩身の狭さから、居づらさを感じてしまうのです。
「がん対策に関する世論調査」によれば、「代わりに仕事をする人がいないか、頼みにくい」と「職場が休みを許すかどうか分からない」を合わせると約45%。両立の困難さがうかがえます。
そんな現実に大企業は先手を打っています。東京女子医大のグループは、2000~11年の12年間に大企業で働く正社員のうち、がんで休職した1278人を追跡。その結果、6割強が1年以内にフルタイムで復帰していました。復職までにかかった期間の中央値は201日。約7カ月です。
中小企業は、一般的な身分保障は3カ月程度ですから、その間にフルタイムで復帰できる可能性はグッと少なくなりますが、ある条件を加味すると事情が変わります。それが時短勤務です。
フルタイムのほか、4~6時間の時短勤務を含めると、7割強が半年以内に復帰。復職までの期間の中央値は80日と、半数以上が身分保障期間の間に復職できる可能性が高いのです。
厚労省は09年に「がん対策推進企業アクション」を設立。がん検診の推進や就労支援などを進めていて、私はその事務局を支援するアドバイザー会議の議長を務めています。そこに賛同する企業2344のうち、実は44%が中小企業です。少ないながらも、「勤務時間の変更」(29%)、「勤務日・勤務日数の変更」(24.4%)などを導入する中小企業もあり、中小企業も、経営陣の意識次第でがん対策が変わる可能性があるのです。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁