決算書でわかる有名病院のフトコロ事情

私立医科大学は大所帯 なぜ大勢の医師が働けるのか

東京慈恵医科大学
東京慈恵医科大学(C)日刊ゲンダイ

 総収入が数百億円から1000億円にもなる私立医科大学。教職員は何人ぐらいいるのでしょうか。教職員数の詳細を公表している東京慈恵会医科大学の数字を見ていきましょう。

 まず医師数です。医学科教員のほとんど全員が医師と考えていいでしょう。有給・無給合わせて約2800人もいます。慈恵会医大の付属病院は4カ所、合計約2600床ですから、多すぎる気がします。

 しかしその半数以上が無給教員です。一般的に無給教員の多くは、2年間の臨床研修を終えている若手で、大学院生として医学博士を目指している医師たちです。ただ大半は研究の傍ら、関連病院などで生活費を稼いでいます。その際、大学院生の身分では低く見られてしまいます。そのため大学が「助教」などの肩書を与えているのです。すでに関連病院や診療所の医師として働いている人も、母校の無給教員になることがあります。定期的に母校に通って、最新の知識を仕入れたり、腕を磨いたりするためです。

■無給教員の多くは医学博士を目指す大学院生医師

 無給教員は医学部特有の制度です。国公私立を問わず、全国の全ての医学部で取り入れられています。医局のボス教授が配下の若手を関連病院に送り込み、実質的に支配していた時代には、手元の無給教員の人数がそのまま政治力に直結していました。また若手医師たちも、医局に属していない限り、いい病院に就職できないといわれていました。

 しかしそういうことは、すっかり廃れています。いまの時代は、むしろ好んで無給教員をやっている若手が多いと聞きます。大学は居心地がいいし、付属病院の収入だけでも十分に生活費を稼げるから、という理由でしょうか。

 臨床研修医は1年目が105人、2年目が95人。4つの付属病院の合計人数です。臨床研修医は法令によりアルバイトを禁止されていますが、大学からの収入は保証されています。

 看護師は2660人で、付属病院の全病床数とほぼ同数。大学病院としては標準的な人数です。その他の職員の中には、病院の薬剤師や技師なども含まれています。

 総勢7153人という大所帯。無給教員を除いても5561人。この人数で年間1013億円の収入を上げているわけです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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