肺がんというと、たばことの関係がイメージされますが、その中でも肺腺がんはたばこと関係が深くありません。そんなタイプが、肺がん全体の6割近くを占めます。先月31日に亡くなったヒップホップグループ「ET―KING」のリーダー、いときんさん(享年38=写真)の命を奪ったのも肺腺がんでした。
昨年6月の健康診断でがんが見つかり、その後の精密検査でステージⅣの肺腺がんでリンパ節や脳転移があることも判明したといいます。肺腺がんは、脳転移を起こしやすいのも特徴です。
肺腺がんを巡って、注目の遺伝子があります。上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子で、EGFRに変異がある人が発がん原因のおよそ半数。その変異があると、細胞増殖のスイッチがオンのままになってしまい、発がんやがん増殖の原因になるのです。
転移の中でも最も恐れられている脳転移は、がん患者全体の10人に1人が発症。肺がんは、脳転移のうちの46%と圧倒的です。肺腺がんは、肺がんの最も多いタイプだけに、脳転移との関係でもEGFRの変異が無視できません。EGFR変異がある脳転移は、米粒ほどの小さな転移病巣が脳全体に見られるのが特徴です。
EGFRに変異があると、細胞増殖が止まらないと書きましたが、そこにブレーキをかける治療薬(EGFR―TKI)が開発されています。第1号のイレッサに続き、タルセバ、ジオトリフ、タグリッソで、現状では第3世代までの4つが健康保険で使用可能。第4世代の認可も間もなくです。
これらの薬剤の登場により、脳をはじめ全身に転移があっても5年以上生存する方が増えています。
従来、脳転移があると、脳全体に放射線を照射する全脳照射が行われたり、転移予防で手術後に全脳照射を併用したりすることがありました。
しかし、全脳照射をすると、正常な脳組織も放射線のダメージを受けるため、3カ月ほどで認知機能が下がるリスクがネックでした。
EGFR―TKIの登場で、日本肺癌学会のガイドラインが変わり、術後の全脳照射は併用しないようになりました。照射するなら、ピンポイント照射で、最初に照射してからEGFR―TKIを順次使い分けていくのがベストとされます。
抗がん剤は効かないといったイメージがありますが、そういうイメージは過去のもの。カギを握るのが遺伝子検査で、遺伝子チェックで効果的な薬剤を使えば、治療がうまくいく可能性があるのです。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁