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【骨盤臓器脱手術】SEXトラブルや合併症なく若い女性にお勧め

永尾光一教授
永尾光一教授(提供写真)
永尾光一教授 東邦大学医療センター大森病院・泌尿器科(東京・大田区)

 女性特有の病気のひとつに「骨盤臓器脱(POP)」がある。骨盤内に収まっている膀胱や子宮、直腸などの臓器が腟壁を押し出して腟の入り口から出てきてしまい、痛みや圧迫感、排尿・排便障害などの症状が表れる。

 通常、骨盤内の臓器は骨盤底筋群(筋肉や靱帯などの組織)に支えられているが、加齢などで支える力が弱くなると起こりやすくなる。最大の要因は分娩。赤ちゃんが産道を通るときに、骨盤底筋群がダメージを受けるからだ。

 欧米の研究では、自然分娩を経験した女性の約3人に1人が患うとされる。国内の統計データはないが、欧米の有病率と同等とみられている。

 治療には、腟内にリング状のペッサリーを挿入したり、腟入り口にクッションを当てるサポート下着を使う保存的療法もあるが、根治するには外科手術が必要になる。

 手術は、大きく分けて3種類ある。腟を少し切開して、そこから前後の腟壁を縫い縮める「経腟的骨盤臓器脱手術(従来法)」。あとの2つは、人工材料のメッシュを用いる。腟からの手術(経腟的)は従来法と変わらないが、メッシュを使って臓器の下垂を修復する「TVM手術」。

 そして、腹部に数カ所の小さな穴をあけて手術する腹腔鏡によって、メッシュで修復する「LSC手術」だ。

 しかし、これらの術式には当然、メリットとデメリットがある。特に、異物であるメッシュを用いると問題があることが分かってきた。そこで永尾光一教授が考案したのが「従来法+真皮移植術」で、通称「永尾法」。メッシュの代わりに自家組織(患者本人の真皮)を使う。既存の術式の欠点をこう言う。

「従来式は、異物は使わないので安全性は高いが再発が多い。TVM手術では効果は確実ですが、腟の傷痕からメッシュが露出したり、性交時の痛みなどの合併症が多い。LSC手術は、腟の一番奥の部分にメッシュを縫い付けるので合併症は少ないですが、手術が大がかりになります」

■保険も効いて6泊7日の入院でOK

 2011年には米国FDA(食品医薬品局)がTVM手術のリスクに対して警告を発している。その影響で、欧米ではメッシュを用いた手術は、ほとんどがLSC手術で行われている。いまでもTVM手術を行っているのは、フランスと日本くらいという。

「永尾法」では、患者の脇腹の真皮を7×10センチほど切り取り、それを骨盤内の靱帯に縫い付けて臓器の位置を修復する。所要時間はLSC手術の約半分で、真皮移植を含めて2時間ほど。入院は6泊7日で、保険適用で受けられる。

「16年8月から始め、これまで50~70代の患者さん5例に行っています。経過を見ても再発や痛みなどの合併症はゼロ。性行為にも問題はないので、若い患者さんほどメリットが高い術式だと思っています」

 保存的療法も多くの施設は保険適用の「ペッサリー療法」を行うが、当院では「フェミクッション」というサポート下着(自費で2万円前後)を積極的に勧めている。

 それは、ペッサリーは出し入れが面倒で、炎症を起こしたり、挿入すると性行為ができないからだ。

 POPは、なかなか口にしにくい病気。患者のQOLを最優先に考えた医療を提供している。

▽1984年昭和大学医学部卒後、同大学院修了。川崎病院形成外科部長、博慈会記念総合病院泌尿器科部長などを経て、2007年東邦大学医学部准教授。09年から現職。〈所属学会〉日本形成外科学会、日本泌尿器科学会、日本性機能学会、日本生殖医学会。

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