子作り治療 最前線

提供精子を用いた非配偶者間人工授精 国内で1万人が誕生

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 精液中に一匹も精子が見当たらない「無精子症」。いまは手術用顕微鏡を使って精巣内から直接精子を回収する最先端の治療法も行われているが、それでも精子が得られない場合がある。

 他に治療法がない無精子症に対する最終手段として位置づけられているのが「提供精子を用いた人工授精(AID)」だ。第三者の男性(ドナー)が提供した凍結保存された精子を使って人工授精を行う。

 現在、実施できる医療機関は認可された全国12施設(2017年7月末現在)に限られ、年間治療数は約3700件(2012年)で、うち出生児数は120人と報告されている。

 国内でAIDによって誕生した子供はこれまで1万人以上といわれるように、その歴史は意外と古い。認可施設の「はらメディカルクリニック」(東京都渋谷区)の原利夫院長が言う。

「国内のAIDは1949年に慶応大学で第1児が誕生しました。当時は終戦直後でマラリアなどに感染したり、負傷したりして無精子症の帰還兵士が多く、救済措置として臨床応用されたのが始まりとされます。それから約70年たちますが、近年もなぜか男性の精子が減少してきているので全体の実施数は増加傾向にあると思われます」

 海外では「精子バンク」業者があり、カタログのドナー情報(目や毛の色、身長、体重、学歴、宗教など)から選ぶことができるが、日本は営利目的を禁じているので精子を選ぶことはできない。各医療機関が独自のルートで精子を提供してもらっている。同院の場合は、20~27歳の医学部在学中の運動部員をドナーの条件にしている。AID実施の際には、夫の血液型と同じドナーが選択され、その他の身長などの希望は考慮されない。

「生まれてきた子供は法的にもご夫婦の正式な子供ですが、実際はご主人の子供ではないので精神的な問題が残ります。大切なことは、ご夫婦の子供として愛情をもって最後まで育てるという確固たる意思です。治療を開始する際は、倫理委員会の承認並びにカウンセリングを最低2回は受けてもらう必要があります」

 ただし、人工授精自体の成功率は5~10%程度で高くない。AIDの費用は施設で異なるが、同院の場合で1回8万円ほど。通常の配偶者間の人工授精を目安にすると5、6回でようやく妊娠するケースが多い。また、受ける女性の年齢や排卵状態によって成功率は大きく左右されるという。

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