人は遺伝子の奴隷なのか

長生きとの関係は? 家系=遺伝子で本当に寿命は決まるのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「うちは先祖代々長寿だから」「短命家系なので心配」――。 ときどき耳にする会話だが、本当に家系=遺伝子で寿命は決まるのだろうか? 国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「もちろん長寿遺伝子だけで長寿が決まるわけではありません。しかし、長寿遺伝子は存在すると考えられています。長生きの人に共通するのは近親者に長生きの人が多い、がんになる人が少ないことが挙げられます」

 122歳まで生きてギネスブックで世界一の長寿記録を保持しているフランス人女性ジャンヌ・カルマンさんの両親も長生きだった。父親は93歳、母親は86歳、兄も97歳まで生きた。

 カルマンさんの両親が生きた19世紀前半のフランスの平均寿命は約37歳だったといわれていることからその長寿ぶりがうかがえる。

 カルマンさんは年を取ってからもとても元気で、100歳までは自転車に乗り、117歳までたばこを楽しんでいた。2015年にデンマークの大学が調べたところ、兄弟姉妹のうち2人以上が90歳以上の長寿の家系の人は、一般的な家系の人に比べて20%以上もがんになりにくいことが報告されている。

 日本で長寿というと双子の姉妹「きんさんぎんさん」(写真)が有名だが、成田きんさんは107歳、蟹江ぎんさんは108歳まで生きた。ぎんさんの4人の娘さんは90歳を過ぎても元気だったという。

 しかし、その一方で、カルマンさんの子供たちが長生きだったかというとそうではない。カルマンさんの夫は74歳で亡くなった。その子供は36歳で亡くなり、孫も同じ年に事故で亡くなった。

 日本人の平均寿命は大正時代から30歳以上延び、100歳以上の人口も150人ほどから6・9万人超と400倍以上増加。驚異的なペースで長生きする人が増えている。しかし、この50年間で長寿遺伝子が突然生まれたとは考えられない。そのため、これは栄養が良くなり、公衆衛生が改善するなど環境要因のせいだと考えられる。ならば、長寿遺伝子はどこにどんな形で存在しているのか? 以前、世間の関心を集めた、サーチュイン遺伝子はどうか?

 この遺伝子は2000年に米国の研究者が酵母の中から発見したもので、誰もが持っている。活性化すると細胞内でエネルギーをつくる小器官「ミトコンドリア」が増え、古くなったタンパク質やミトコンドリアが除去されて、新しく生まれ変わる「オートファジー」という機構が働くことがわかっている。

「空腹状態や赤ワインの成分であるレスベラトロールを取ることで活性化するといわれてきましたが、最近の研究ではまだまだ検討の余地があると考えられています。確かにマウス実験ではその効果は認められたものの、人間に対しては遺伝子レベルでの証明が難しいのです。むしろ、遺伝子のスイッチのオン・オフに関係するといわれるジャンク遺伝子などの働きの方が長寿には深い関わりがあるのかもしれません」

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