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主治医の説明が理解しづらいなら“病理外来”という選択肢も

坂谷貴司教授
坂谷貴司教授(C)日刊ゲンダイ
坂谷貴司教授 日本医科大学付属病院・病理診断科(東京都・文京区)

 がんの診療の場合、「病理診断」によって確定診断がなされ、それに基づいて治療方針も決定される。病理診断とは、患者から採取した細胞や組織を顕微鏡で見て診断することで、実際に行うのは普段は患者と接することのない病理専門医。一般的に、その病理診断結果が主治医(臨床医)から患者に伝えられる。

 しかし、病理専門医が記載した内容が患者に十分理解できるように伝えられているとは限らない。診断結果には、専門家でないと理解が難しい文章も含まれる。「病理外来」はセカンドオピニオンのひとつで、患者や家族が病理専門医から直接説明を受けられる外来だ。

 同院の病理外来を担当する坂谷貴司教授が言う。

「血液検査などのように数値で示されるなら、分かりやすく患者さんもすぐ納得できます。しかし、病理診断では良性か悪性かだけでなく、良悪の判断が難しい場合もあります。主治医から『がん』と伝えられる場合もあれば、『がんの疑い』と言われる場合もある。そうなると患者さんも不安です。なぜ、治療が必要なのか、経過観察でいいのかなど、患者さんの不安や疑問に対して実際に標本を目で見ながら病理専門医が直接分かりやすく説明することで、病気への理解も深まり、治療に専念できると考えています」

 臨床医も多忙で、かならずしも病理診断学に詳しいわけではない。患者に分かりやすく伝えるのが難しい場合もある。そのようなことが患者の医療不信につながる要因にもなる。病理診断についての主治医の説明が理解しづらいようなら、病理外来という選択肢があることを知っておくといい。

■病気の詳細を知ることができる

 ただし、病理外来を設ける医療機関は、全国でも大学病院を中心に限られる。というのも、国内の医師約32万人のうち、病理専門医は約2400人と圧倒的に少ないからだ。人口に対する割合では米国の3分の1。がん診療連携拠点病院でも常勤の病理専門医がいない施設も少なくない。

「高齢化に伴って、がん患者さんが増える一方で病理専門医の人手は足りていません。病理診断科が標榜科として認められたのが10年前なので、病理専門医の存在を知らない患者さんもいます。当院は良質で高度先進医療を提供する大学病院であり、常勤の病理専門医は9人と多い方で、年間1万5000件ほどの病理診断を行っています。それでも病理外来の依頼は年間数件ほど。もっと病理の仕事やご自身の病気について知ってもらいたいと思っています」

 病理診断には主に、生検や手術で採取した組織を標本にして診断する「組織診断」、病気の一部から細胞を採取して診断する「細胞診断」、手術の最中に標本を作製して診断する「術中迅速診断」、亡くなった遺体を解剖して調べる「病理解剖」がある。

 これらの病理診断の中には、診断が難しい症例も出てくる。その場合には「コンサルテーション・システム」といって、各臓器に精通する病理専門医が施設の枠組みを超えてお互いに意見を聞く仕組みが整備されているという。

「病理外来でご自身の病気の詳細を知ることができます。そして、それを客観的事実として患者さんにきちんと受け入れていただくことの手助けができればと思っています」

▽1996年鳥取大学医学部卒後、同大大学院修了。東京大学助教、自治医科大学准教授などを経て、14年から現職(臨床教授)。〈所属学会〉日本病理学会、日本乳癌学会、日本臨床細胞学会、日本癌学会など。

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