がんとは何か

体内では毎日無数のがんが出来るのに健康でいられる理由

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ノーベル医学生理学賞の受賞でがんの免疫療法が話題だ。今週はがんと免疫について考えてみたい。ヒトの体の中では毎日無数のがん細胞が生まれる。にもかかわらずがんにならないのは、がん免疫監視機構があるからだ。免疫とは「自己と非自己を区別して、非自己を排除する仕組み」であり、自然免疫と獲得免疫に大別される。

 自然免疫はもともとヒトに備わっているもので、マクロファージ、NK細胞、樹状細胞などを指す。細菌やウイルス成分など異物と結合する受容体を細胞表面に持ち、攻撃すべき目標(抗原)を認識すると活性化し、異物を攻撃する。

 一方、獲得免疫は異物に対して後天的に形成される免疫反応のこと。B細胞とT細胞が中心で、B細胞は抗原を認識するとそれと特異的に反応する抗体物質をつくり、その物質は抗原に結合して抗原を持つ細胞を除去する。T細胞は直接、抗原を攻撃する。

 ちなみに、獲得免疫には自然免疫と違って免疫記憶があり、異物への攻撃を終えたT細胞はメモリーT細胞として体の中に長期間存在する。はしかの病原体から作ったワクチンを打つとはしかになりにくいのは、はしかのワクチンを抗原として記憶したT細胞がメモリーT細胞となって体内にとどまる仕組みを利用しているからだ。

 免疫には、「免疫寛容」という仕組みが備わっている。免疫が自身の細胞を攻撃しないためだ。獲得免疫であるT細胞は、胸腺というところでつくられる。そこでは自分自身を異物として認識するT細胞受容体(TCR)を持つT細胞を取り除く。そうすることで自己免疫疾患を起こさないようにしている。国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「がん細胞が生まれると、まず自然免疫が攻撃します。NK細胞がサイトカインを浴びせたり、マクロファージが貪食したりします。そしてがん細胞に免疫応答を引き出します。そのことで獲得免疫ががん細胞の存在を認識して、さらに強力な攻撃を仕掛けるのです」

 このとき最も重要な働きをするのが自然免疫のひとつである樹状細胞だ。獲得免疫全体の司令塔的な役割を果たすこの細胞は、がん抗原を認識すると活性化して、免疫に関わる他の細胞たちにその抗原を示すことでがん細胞の存在を通報する。攻撃力のあるT細胞のうちヘルパーT細胞はがん抗原を認識すると、キラーT細胞という殺し屋が活性化され、Fasリガンドなどの細胞障害性物質でがん細胞を攻撃する。一方、ヘルパーT細胞はB細胞に指示してがん抗原に対するがん抗体をつくらせ、これを特異的に結合させてがん細胞を除去する。

関連記事