角膜感染症につながることも…更年期妻を悩ますドライアイ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 妻の更年期障害に閉口している男性も多いだろうが、ホントに困っているのはあなたの妻自身だ。女性の更年期障害とは、女性ホルモンの分泌が急激に減少することで起こる閉経前後の心身の変化をいう。体が火照ってイライラする、汗をかく、疲れやすい、肩が凝り頭痛がする、などのつ症状が知られるが、女性自身気付きにくい症状がある。ドライアイだ。「清澤眼科医院」(東京・南砂)の清澤源弘院長に聞いた。

 今年、河田恵子さん(仮名、48歳)は、夏ごろから目がひどく疲れるようになった。しかも、時々目にゴロゴロした違和感と痛みがあり、目の周りの皮膚がピリピリする。パソコンの入力作業をすることが多くなっていたことから、最初は眼精疲労を疑い、ビタミン入りの市販の点眼薬を使ったが一向によくならない。近くの眼科医院で診てもらったところ、ドライアイと言われた。

「ドライアイは、目の表面を守る働きをしている涙の量が不足したり、涙の質のバランスが崩れたりすることによって涙が均等に行きわたらなくなる病気です。目の表面の潤いが失われることで、目の表面に傷ができ、疲れや痛みを感じることがあります」

 放っておくと、涙腺などが破壊される自己免疫疾患であるシェーングレン症候群を伴ったり、角膜が傷ついて視力が低下したり重度の角膜感染症を引き起こしたりする。

「高齢化、エアコンの使用、パソコンやスマートフォンの使用、コンタクトレンズ利用者の増加に伴い、ドライアイ患者さんも増えており、その数は2200万人ともいわれています。女性の更年期もドライアイになりやすい要因のひとつです」

 女性ホルモンの分泌量は20代後半から30代前半にピークを迎え、40代から急速に低下していく。その主な原因はこの時期に卵巣の中にある卵子のもと(原始卵胞)の数が急激に減少するからだ。 女性ホルモンは卵胞が成熟していく過程で分泌されるため、卵胞が減少すると女性ホルモンの分泌も低下する。女性ホルモンの分泌が低い状態が続くと骨粗しょう症や脂質異常症、動脈硬化などの病気にかかりやすくなることが知られている。

「この年代の女性は老視も併発していることが多い。このため、まばたきをして涙を出して目の表面に潤いを取り戻そうとするたびに、ピントを合わせ直さなければならず、目が一層疲れてしまうことも多いのです」

■涙の質が変わって痛みを起こすケースも

 ドライアイの原因は涙の量が減るか、涙の質が変わったかのどちらかだ。更年期の女性は後者のケースが多いという。

「涙はムチン、水、油の3層構造になっています。表面の油は涙が蒸発しないためであり、胃粘膜や唾液に含まれるムチンはネバネバした成分で、水分を目の表面になじませるためのものです。恐らく、河田さんは女性ホルモンの減少によりムチンの量が減り、涙が目の表面にとどまることができずにドライアイになったのでしょう」

 目の周りが痛いのは、涙によるかぶれの可能性もある。

 ドライアイとは真逆のイメージがあるが、実はドライアイは涙があふれる、流涙症を起こしやすい。

「涙の量は足りているのに、涙の質が劣化したドライアイでは、目の表面が乾燥して傷つかないように大量に涙を分泌して質を量で補おうとします。その結果、鼻涙管を通して排出するだけでは処理できずに、涙があふれてしまうのです」

 では、こうした更年期の女性の目の病気にはどのように対処すればいいのか?

「ドライアイの根本治療法はありません。そのためまずは薬物療法を行います。これまでドライアイ用の目薬といえば、人工涙液とヒアルロン酸ナトリウムを含んだものでした。ヒアルロン酸は保湿成分で目の表面に水分をとどまらせる働きがあります。最近、これにムチンの産生を促すジクアホソルナトリウムやレバミピドの点眼薬が加わりました。涙の質を改善して涙の分泌量が抑制され、流涙の症状が改善されるといわれています」

 点眼液で効果が得られない場合は、涙点閉鎖による治療を行う。涙の排出口である涙点を閉じ、涙の流出を抑えて、涙を目の表面に十分にためる方法だ。

「涙点にシリコーンや合成樹脂製の涙点プラグを挿入する方法と涙点を縫い閉じる涙点閉鎖術があります。流涙症には鼻涙管にシリコーンチューブを入れて涙道を拡張する治療法などがあります」

 ちなみに、ホルモン補充療法や低用量ピルを使用している人はドライアイの症状が軽減するといわれる。

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