がんと向き合い生きていく

手紙を読んで死の恐怖を乗り越える術に一歩近づいた気がした

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 短い命を告げられた患者が、宗教なしでどうやって奈落から這い上がるのか? そのひとつの術として、女性作家のKさん(当時73歳)からいただいた手紙を紹介します。

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 私自身、深刻な病気を持ちながら死ぬまで生きる杖が欲しくて、すでにやめてしまった「書くこと」を再開したものですから、よくわかります。

 死が差し迫った現実になった人にとって、何のために生きるのか、の「何」は、哲学的な命題ではなく、具体的な日常的な目標なのだと思います。

 つまり、細々としたやらねばならないことに囲まれた日常を維持することで、死という非日常を乗り越える。あるいはやり過ごす。奈落に日常を持ち込むことで、生と死を一続きの人間の営みととらえ、孤立し切断される死ではない、人の生活の中にある自然な死を実感して気持ちを立て直す。這い上がる。

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佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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