お酒と健康 8つの疑問

脳がマヒ…記憶を失うまで酔っても家に帰れるのはなぜか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

【Q】正体を失うまでお酒を飲む上司がいます。翌日聞くと「記憶はないけど、不思議と家にはたどり着く」と言います。なぜグデングデンでも家に帰れるのですか?

【A】お酒を飲んで酔うのはアルコールが脳の神経をマヒさせるからです。アルコールは肝臓で分解されますが、そのスピードは体重60キロの成人男性で1時間6グラムといわれます。ビール1本、日本酒1合飲むと、4時間近くかかる計算になります。その間、分解されないアルコールは血液を介して脳に運ばれます。

 通常、脳は有害な物質を脳関門という場所がブロックして防ぎます。しかし、アルコールは分子が小さいなど、その性質上、やすやすと侵入することができます。

 アルコールの影響を一時的に受けるのは思考や理性をつかさどる「前頭葉」、運動機能をコントロールする「小脳」、記憶に関係する「海馬」です。

 酔っぱらうと「実は……」「ここだけの話だけど……」などと普段は決して言わない話をしたり、大声で下ネタを話したり、隠していた性癖が出たり、自慢話や人の悪口を言ったりします。

 これは前頭葉の神経が一時的にマヒした証拠です。突然怒りだしたり、泣いたり、笑いだしたりするのも、この影響だと考えられます。昔から、上司や取引先の人、友人がお酒に誘うのは、こうした秘密の暴露の期待や普段見せない顔を見たいからでしょう。

 お酒を飲むと、真っすぐ歩けなくなったり、転倒したり、ロレツが回らなくなったり、細かい手の動きができなくなるのは、小脳が一時的にマヒするからです。同じ話を何度も繰り返したり、記憶を失ったりするのも海馬に対するアルコールの一時的影響です。

 人が記憶するとき、海馬で一時的に短期記憶をしてから長期記憶に置き換える必要があります。酔っぱらうと同じ話をするのは海馬のマヒで短期記憶ができなくなるためで、同じ話をすることで何とか短期記憶しようとしているからです。

 そんな状態でも家に帰れるのは、既に帰り道が長期記憶として固定されていて海馬がマヒしても忘れないからだと考えられます。ですから、旅先で酔っぱらってホテルに戻れないのは、短期記憶も曖昧で、長期記憶されていないからです。

(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)

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