人生100年時代を支える注目医療

スマートコンタクトレンズで眼球の形状や眼圧を計測できる

小橋英長特任講師
小橋英長特任講師(提供写真)

 腕時計型の「スマートウオッチ」やサングラス型の「スマートグラス」のように、腕や頭部など体に装着して利用する端末を総称して「ウエアラブルデバイス」という。従来、近視や乱視など目の屈折異常を矯正するために使われてきたコンタクトレンズも、ウエアラブルデバイスとして世界中で開発が進められている。いわゆる「スマートコンタクトレンズ」だ。

 レンズに搭載する機能によって、さまざまな用途が考えられる。

 医療分野では、どんな使い方が期待できるのか。

 医療用スマートコンタクトレンズの研究を専門のひとつとする、慶応義塾大学眼科学教室の小橋英長特任講師(写真)が言う。

「スマートコンタクトレンズは、直径14ミリほどのレンズを2枚貼り合わせた構造になっています。その間にICチップやアンテナなど、必要に応じた機器回路を内蔵させます。医療への応用ではバイオセンサーを入れることで、眼球の形状や眼圧、涙液に含まれる体液成分などを計測できます」

 現在、最も実用化に近く先行するのは、スイスのSENSIMED社が2010年に開発した眼圧が計測できる緑内障診断用のスマートコンタクトレンズ。

 すでにFDA(米食品医薬品局)と日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)の承認済みで、日本でも今後広まる可能性がある。

 レンズ内に圧力センサーと無線通信機能が内蔵され、データは患者の首に装着する小型受信機に送られる。電源は受信電波によって外部から供給される仕組み。これによって眼圧の日内変動をとらえ、患者に合った眼圧管理ができれば、緑内障による失明が回避できると期待されている。

 また、08年から米国ワシントン大学とグーグルが共同で開発を進めてきた涙液で血糖値を測定するスマートコンタクトレンズが注目されていた。しかし、昨年11月に開発の中止が発表された。

「涙液中のグルコース値から血糖値を推定する技術ですが、血液に比べて30~40倍ほど薄く、いいデータが出なかったようです。涙液中のグルコース値は、実際の血糖値より数時間遅れてピークがくるので、リアルタイムで測定値が分からないと糖尿病の治療に結びつけられないのです」

 ただ、コモディティー(日用品)として開発されたスマートコンタクトレンズの機能を医療に使うことも可能だ。たとえばソニーなどが進めている、まばたきでシャッターが切れるカメラ機能の場合、オートフォーカスなので近視や老視の矯正に応用できるという。

 いずれにしてもスマートコンタクトレンズは目に直接触れるため、長期的な安全性や電磁波の影響などの検証が不十分なので、医療用として臨床での実用にはまだ時間がかかりそうだ。

 そこで小橋特任講師は、別のIoT(モノのインターネット)技術を使った緑内障患者向けの眼圧計の開発も進めている。

 プロトタイプ(原型)の開発は1年以内、3年後の実用化を目指しているという。

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