これで認知症介護は怖くない

まるでそこにいないかのように無視され孤独を噛みしめる

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 脳に障害があるのだから、うまく発語ができない父親は、「あ」とか「う」とか言えない。すると周囲の話題はいつの間にか先に進んでしまう。やっと父親が言葉を思い出すと、「その話はもうすんだよ」と無視される。

 まるで父親がそこにいないかのように無視され、「私はひとりぼっち」であることに気づき、孤独を噛みしめる。

 認知症の人たちに、これまで何がつらかったかと尋ねると、まず挙げるのが①人とのつながりが消えること、次が②社会とのつながりが断たれることである。孤立しても我慢する人はいるが、この父親のように、性格によっては茶碗を投げたり大声で怒鳴って怒りを爆発させる人もいる。家族に無視されたら普通の人でもつらい。それは認知症になっても同じなのである。

 認知症の「症状」といわれるものには、すべてに理由があることを知ってほしい。

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奥野修司

奥野修司

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「怖い中国食品、不気味なアメリカ食品」(講談社文庫)がある。

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