後悔しない認知症

高齢者が高血圧や高血糖の薬を飲み続けるのは考えもの

写真はイメージ
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「近ごろ、認知症のせいか、ボーッとして血圧の薬を飲むのも忘れてしまっている」

 高齢の親を持つ子どもさんから、こうした心配の声が聞かれる。

 最近は各自治体で後期高齢者検診が実施されているが、そこで「血圧」や「血糖値」「コレステロール」などがひっかかり、薬の服用を強く勧める医者が少なからずいるのだ。わずかに基準をオーバーした数値以外、とくに症状が認められない場合においても、である。すると多くの高齢者は「医者に言われたから」とまじめに薬を飲むようになるし、子どももまた親が薬の服用を忘れないようにと心がける。

 だが、ここには大きな落とし穴がある。「ボーッとしている」のは、認知症のせいではなく、その薬のせいかもしれないからだ。

 降圧剤については脳の障害、全身の倦怠感、頭痛、食欲不振の副作用があるし、血糖降下薬には便秘などの腸の不調をはじめ、とくに高齢者の場合、低血糖状態に陥らせることが多く、意識障害などにつながることが珍しくない。意識障害での異常言動が認知症によるものと診断されるケースも少なくない。コレステロール値についていえば、その低下が意欲低下を招くという説もある。また、ある調査によれば、悪玉コレステロールとされるLDLコレステロールの値が高いほど総死亡率が低下するという結果も明らかになっているし、別の調査ではコレステロール値を下げても心筋梗塞発症のリスクは下がらなかったという結果も出ている。

 そもそも血圧、血糖値、コレステロール値を下げる目的は、10年後、20年後に脳卒中、心筋梗塞になるリスクを回避することにある。75歳以上の後期高齢者が10年後、20年後の予防のために薬を服用する意味については、私自身、極めて否定的だ。かりに数値に多少の問題があったとしても、高齢者の場合は、食生活、生活習慣の見直しを中心に改善を図るべきだろう。薬についてつけ加えるなら、ほかの病気の治療薬にも、種類によっては認知症によく似た副作用が表れるものがあることを知っておいたほうがいい。

 高齢者の治療は「自覚症状をラクにする」ほうが本人の幸せにつながるし、子どもはそのための医者選びを見直してみるべきだ。「どこかが痛いわけでもない」「生活に不自由をきたしているわけではない」「自覚症状もない」のであれば、ただ長生きのためだけに毎日薬を飲むのは、考えたほうがいい。もちろん、血圧の高さが原因で毎日頭痛やめまいに悩まされていて、降下剤の服用でその症状が改善されるようなケースなどは例外だが……。

 いずれにせよ、高齢者がさまざまな薬を服用することは、認知症発症のリスクを高める可能性も否定できない。そもそも厚労省が正常とするさまざまな数値も、高齢者を基準に設定されているわけではない。それが寿命を延ばしたり、病気を予防したりすることを証明する日本人対象の大規模調査がほとんどないのだ。

 高齢になると血管の壁が厚くなるので、血圧や血糖値が高いほうが酸素やブドウ糖はいきわたる。多少、正常とされる数値を超えたとしても、それは適応現象かもしれない。子どもは何よりも親のQOL(生活の質)を下げずに機嫌よく生きることを最優先すべきだ。最後につけ加えると、集団健診は日本以外では実施されていない。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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