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軟らかい頭も使って卵を持つ前の豊富な栄養を丸ごといただく

真ダコを使ったアヒージョ(右)とチヂミ
真ダコを使ったアヒージョ(右)とチヂミ(C)日刊ゲンダイ
旬を食す④真ダコ

 真ダコはその産地によって旬の時期が異なります。北の方は秋にかけてですが、瀬戸内では夏が旬とされています。有名な明石の真ダコは、いまが旬。8月に入ると卵を持つため、足が細くなってくるそうです。

 旬の食材として真ダコを選んだ理由のひとつに、栄養が豊富なことがあります。

 タコというと、ともすれば、栄養が乏しいような印象をもつ方もいらっしゃるかもしれませんけれど、肝臓の働きを促す作用をもつタウリン、抗酸化作用のあるビタミンE、動脈硬化や認知症の発症を抑えるビタミンB12、老化防止に有効な亜鉛などが含まれています。なにより高タンパク、低カロリーですから、ダイエットに適しています。

 今回は真ダコを使ってオリーブオイルとニンニクで煮込むスペイン料理のアヒージョと、小麦粉などと合わせて平たく焼く韓国料理のチヂミにしました。

 アヒージョでは真ダコの頭も使います。タコは主に足を使うイメージがありますけど、頭は足と比べて軟らかいうえ、値段も安い。使いやすいので、おすすめの部位です。タコと合わせるマッシュルームは包丁で切るのではなく、手で割いてください。その方が味が染みます。

 真ダコを使ってチヂミにしたのは、ニラとの相性がバツグンにいいからです。

 足だけでなく、頭も料理する。栄養豊富な旬の食材を余すところなく、おいしくいただくことが大切です。

■アヒージョ

《材料》 
◎真ダコの頭 一口大に切る(写真)
◎真ダコの足 中1本を一口大の乱切り
◎マッシュルーム 4~5個の汚れを拭いて石付きを除き、手で4つに割く
◎ニンニクのみじん切り 小さじ2分の1
◎オリーブオイル 大さじ3
◎アンチョビーのみじん切り 大さじ1
◎赤唐辛子のみじん切り 小さじ4分の1
◎白ワイン 大さじ3
◎塩 少々
◎白胡椒 少々
◎イタリアンパセリ みじん切り少々

《作り方》 
(1)小さめの土鍋、または耐熱容器にニンニクとオリーブオイルを入れて中火に。ニンニクの香味が立ったら、アンチョビーと赤唐辛子とタコを加えて軽く炒める。
(2)マッシュルーム、白ワインを加え、蓋をして1~2分火を通し、味をみて塩、白胡椒で調味する。最後にイタリアンパセリを振りかける。

■チヂミ     

 薄力粉(大さじ4)、片栗粉(大さじ3)、ダシ(大さじ1=水で代用可能)、酒(大さじ1)、卵(1個)、白胡椒(少々)を合わせる。フライパンにごま油大さじ1を入れて中火にかけ、薄力粉などを合わせたものを流し入れ円形に。タコの足の粗みじん切り2分の1カップと、ニラの小口切り4分の1束を全体に散らす。底面に火が通ったら上下を返し、周りからごま油大さじ1を流し入れ、カリッとするまで焼く。一口大に切り、たれ(醤油大さじ1と2分の1、米酢大さじ1、コチュジャン小さじ1、白ごま大さじ1)をつけていただく。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

真ダコは豊富なタンパク源。頭は一口大に切って(下)
真ダコは豊富なタンパク源。頭は一口大に切って(下)/(C)日刊ゲンダイ
必須アミノ酸が豊富に含まれる優れた動物性蛋白質

 このタコ! という罵り言葉は落語などでよく聞かれる。その語源は、私も定かなところは知らないが、江戸時代にはすでにあったらしい。なになに以下(イカ)という嘲りの対語として人々の間で使われるようになったとか。丸い頭部とゆらゆらした8本の足というユーモラスな形態も面白おかしく語られる理由だろう。

 しかし、生物としてのタコは罵られるほどには愚かではなく、むしろかなりの知能の持ち主である。問題解決能力や記憶力が高いのだ。

 例えば、ネジ蓋式のガラス瓶にエサを入れて与えると、エサを視認した上で、試行錯誤の末、蓋を足で回して開けることができる。食用としては主にこの足をいただくわけだが、刺し身にしても、調理をしてもおいしい。歯ごたえがありつつ、極めてなめらかな独特の食感は、タコの足の筋肉に、特定の方向の繊維(すじ)が走っていないことによる。それはタコがこの足を自由自在にあらゆる方向に動かして、移動、捕食、防御などをするために必要だからだ。8本の足にはくまなく神経のネットワークが張り巡らされているので、実に器用な動きができる。タンパク質としても必須アミノ酸が十分量含まれるすぐれた動物性タンパク源である。知性ある人は、タコを嘲り言葉として使うことを慎むべきである。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

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