男性不妊の一因に…パンツの中の"猛暑”は体に何を起こす?

ゆるいタイプの下着を
ゆるいタイプの下着を(C)日刊ゲンダイ

 人間の体の中で最も皮膚が薄いのは男性の陰嚢を包む皮膚だ。精子を製造する睾丸(精巣)は温度に弱いため、熱がこもらないように薄い皮膚に包まれているのだ。その意味で、猛暑で最もダメージを受けるのは、熱がこもりやすい男性のパンツの中のデリケートゾーンかもしれない。「パンツの中の猛暑」は何をもたらすのか? 「弘邦医院」(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。

 精子の能力は、精子量や濃度、運動能力などで示されるが、夏に高く、秋口に下がることが知られている。

「精子は2カ月半かけてつくられるので、8月の猛暑の影響は秋口以降に表れるからです。一般に陰嚢内はお腹の中より3度程度、温度が低く、精巣はその低い温度のもとで精子をつくります。逆に言えば、温度が高くなる環境だと精子をつくる力が低下するのです」

 男性不妊の原因のひとつに「精索静脈瘤」がある。陰嚢内にある静脈が拡張することで血液がうっ滞する。精巣が体温と同じ血液の温度で温められるため精子ができにくいとされている。

 暑くなると陰嚢が垂れ下がるのは、体温が高くなったお腹から離れて、陰嚢の表面積を広げて、汗による放熱で精巣を冷やすためだ。その意味では、夏に熱がこもりやすいブリーフやビキニをはくのは考えものだ。

 米国ハーバード公衆衛生大学院の研究チームが、ピッタリとフィットする下着をはいている群と、トランクスのような緩いタイプの下着をはいている群とに分けて精液検査の結果を比較したところ、ゆるいタイプの下着をはいている群の方が精液濃度で25%、精子総数で17%、運動精子濃度で33%も高かったという。

■かゆみが重大病の前触れになるケースも

 陰嚢は精子の製造を続けるため、夏場はより多くの汗をかく。蒸れてかゆみが出るのは当然だ。

「一般の人の中には股間のかゆみというと、淋病や梅毒のような性病をイメージする人がいますが、ほかにもいくらでもあります。例えばインキンタムシです。股間にかゆみがある場合に最も頻度が高い病気で、正式には『股部白癬』と呼ばれます。皮膚糸状菌(白癬菌)というカビの一種が股間に感染したものです」

 足に感染した白癬は水虫と呼ばれ、腕や体に感染すればゼニタムシと呼ばれる。水虫のある人は比較的インキンタムシにもなりやすいといわれている。

 症状は脚の付け根、陰嚢の周りがかゆくなり、環状に紅斑が広がる。ただし、陰嚢には広がりにくい。 

 一方、陰嚢がかゆくなるのは陰嚢湿疹だ。湿疹は皮膚に炎症を起こす病気の総称で、原因は汗、化学物質など多岐にわたる。このため原因を特定するのは難しいが、真夏に発症する中には汗による接触皮膚炎や脂漏性湿疹が考えられる。 

「皮膚が薄く弱い中高年は、汗に含まれる成分が皮膚の刺激となってかゆみやかぶれを起こすことがあります。また、皮膚の穴から分泌される皮脂をエサにする真菌の刺激で炎症を起こす病気が脂漏性湿疹で、頭皮のかゆみやフケの原因として有名ですが、股間に発症することもあります」

 性器カンジダも多い。猛暑による疲れやストレスなどで免疫力が低下。それが原因で常在菌であるカンジダ菌(真菌)が股間に繁殖して暴れ回る。

「肥満や糖尿病、高齢者のほか、抗生物質やステロイドなどを使用している人に目立ちます。その構造上、女性に多いといわれています」

 再発を繰り返すため、最近は膣カンジダの再発治療薬が市販されている。「膣カンジダの再発は、自分でチェック、自分で治せる」というテレビCMを見たことがある人もいるはずだ。 

「男性は、包茎の人の方がなりやすく、亀頭に白いぶつぶつができる亀頭包皮炎を発症するほか、陰嚢に感染し、小さな嚢胞ができます。女性は、膣炎と外陰炎を同時に起こすことが多く、陰部にムズムズした不快感のほか、灼熱感や頻尿などの症状が表れます」 

 デリケートゾーンがかゆくなる病気の中には、まれに命に関わる病気もある。 

「外陰部パジェット病という皮膚がんの一種は、60歳以上の男性に多い。肛門や脇の下などで発症しますが、多くは陰部に発症します」 

 硬化性苔癬は強いかゆみとともに皮下出血が生じることが多く、水疱ができることがあるのが特徴で、長く感染した患者の5%が皮膚がんになるといわれる。自己免疫疾患のひとつで、女性の場合は初潮前と閉経後の2つのピークがある。男性はとくに30~50歳に多い。

 股間のかゆみが出たら速やかに皮膚科医院などを受診することだ。

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