進化する糖尿病治療法

糖尿病は治らない…はかつての話 ポイントは早期治療にあり

集中的に体重コントロールに取り組む(写真はイメージ)/
集中的に体重コントロールに取り組む(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 これまでこの連載では、どういう生活が糖尿病のリスクを高めるか、糖尿病が将来的にどれほど大きな問題になるかを紹介してきました。患者さんによく話していることも、同様の内容です。今回は、糖尿病における「希望」について取り上げたいと思います。

 糖尿病の基本概念として「治らない病気」というものがあります。たとえば日本人の死因第1位のがんは、早期発見であれば、完治も可能です。ところが糖尿病の場合、一度発症してしまうと、その後は厳格な食事制限が必要で、いったん投薬が始まれば一生飲み続けなければならないというのが“常識”でした。

 ところが近年、それを否定する研究結果が発表されているのです。つまり、糖尿病も「治る」可能性があるのです。2017年9月にポルトガル・リスボンで開催された欧州糖尿病学会では、「糖尿病患者が減量で適正体重に戻すことで、投薬なしで正常の血糖値を維持できる(寛解)可能性が高い」との発表がなされています。

 また、英国のニューキャッスル大学とグラスゴー大学の研究グループによって行われている「DiRECT」(糖尿病を寛解するための臨床試験)には、2型糖尿病患者298人が参加しています。これらの患者は低カロリー食を実施し、ウオーキングなどの運動を毎日行うとともに、専門スタッフからストレス対処法や睡眠法についてのアドバイスを受けています。

 このうち、発症後6年以内の2型糖尿病患者64人を対象に、食事療法や運動療法を中心とし集中的に体重コントロールに取り組む群と、従来通りの治療を行う群に振り分け、12カ月後の結果を見ました。

 すると、集中的に体重コントロールに取り組んだ群は肝臓や膵臓にたまった脂肪も減少し、血中の中性脂肪が低下。それに伴い、血糖コントロールが改善し、血糖値が正常化。約半数にあたる29人が2型糖尿病から離脱できたのです。

 ある患者は、体重の適正化によって、肝臓の脂肪蓄積は30・4%から1・3%に、膵臓の脂肪蓄積は8・9%から7・5%に減少し、インスリン産生にかかわるβ細胞が正常化して膵臓が再起動。必要な量のインスリンを分泌できるようになり、2型糖尿病が“治った”のです。

 なお、2型糖尿病から離脱できた群の糖尿病の罹患期間は平均2・7年、改善しなかった群では平均3・8年でした。

■体質が“リセット”できる

 この「DiRECT」は継続して行われており、2型糖尿病から離脱できなかった人の原因を遺伝子レベルで追究することを目指しているとのこと。

 いずれにしろ、この研究から推測できるのは、糖尿病を発症して早い段階で徹底した体重コントロールに努めれば、内臓脂肪が減少し、膵臓が再起動する。

 結果、インスリンを適切に分泌できるようになり、糖尿病から脱却できる可能性がある、とのことです。全員がそうならなかったとはいえ、「糖尿病を一度発症すると、うまく付き合うことはできても、“完治”は不可能」と考えられてきたことを考えると、約半数近くが糖尿病から脱却できた意味は非常に大きいと思います。

 患者さんの中には、「糖尿病と言われた。お先真っ暗だ。もう食事を楽しめない」と悲観的になる人がいます。または、「血糖値が高い。再検査を」と健診で言われたけれど、「糖尿病と診断されるのが怖い」「糖尿病は治らない病気なのだから、早く診断されても意味がない」などの理由から、再検査を受けに行かない人もいます。進行しないと自覚症状が出てこない病気なので、「仕事が忙しいから」と再検査を後回しにしている人も少なくありません。

 しかし、「糖尿病を早期発見し、早期治療をすれば、完治の可能性もある」と考えれば、行動も変わってくるのではないでしょうか? また、糖尿病を改善するために徹底した体重コントロールをすれば、DiRECTの研究結果でも示しているように、内臓脂肪も減少しますから、脂質異常症や高血圧も改善します。一石二鳥、いや三鳥かもしれません。そして、いわゆる“体質リセット”ができる。「人生100年時代」ですから、60歳を過ぎても生き生き元気に過ごせることは、非常に重要です。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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