さすがに12月ともなると朝晩の冷え込みが厳しくなってきます。それとともに関節や神経の痛みを訴える人が増えてきます。
寒いと痛みを感じるのは、低温では交感神経の働きが活発になって血管が収縮し虚血状態になり、発痛物質の蓄積が起こり、知覚神経が過敏になるからだといわれています。特にお年寄りは加齢とともに副交感神経の働きが弱くなり、交感神経優位が若い人以上に強くなるため、痛みをより強く感じるようです。
そのため、12月に入ると、腫れや痛み、熱を下げる作用のある非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使う人が増えてきます。そのせいで、胃の内視鏡検査をすると、NSAIDs潰瘍が多く見られます。
NSAIDsとはアスピリンやロキソニンといった発熱や痛みに対する薬で、腰痛や膝痛、頭痛、風邪症状や生理痛など、さまざまな医療機関で処方されているポピュラーな薬です。飲み薬だけでなく湿布薬としても人気で、最近はスイッチOTC医薬品として、薬局やドラッグストアで購入可能なものもあります。
NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害することで、痛みの原因となるプロスタグランジン(PG)と呼ばれる物質の産生を低下させます。
ところが、このPGという物質には胃や十二指腸の粘膜を保護するという役割もあるため、NSAIDsを使用することで結果として胃の粘膜の保護作用が低下して傷つきやすくなり、潰瘍の原因となるのです。
NSAIDs潰瘍は非ステロイド性消炎鎮痛剤を使い始めて3カ月以内でよく見られる症状です。
ピロリ菌による潰瘍が胃の入り口に近い胃角部から胃体部にできるのに対して、胃の出口である幽門部に潰瘍が現れるのが特徴で、浅い潰瘍が数多く見られます。
出血や幽門部狭窄などの合併症があるケースも多く、胃の痛みといった自覚症状がないケースが半数近くあります。
日本リウマチ財団が1991年に発表した調査によると、NSAIDsを3カ月以上服用している関節リウマチ患者のうち、15・5%に胃潰瘍が認められ、1・9%に十二指腸潰瘍が認められたと報告しています。通常の消化器がん検診で診断される胃潰瘍の頻度が1~2%ですから、かなり高い確率で発生するといえるでしょう。しかも、NSAIDs潰瘍のうち胃潰瘍は41・3%が何も症状や兆候を感じない、「無症候性」だったとしています。
この潰瘍が怖いのは、それによるダメージ自体はそれほど強くないにしても、日本人の多くはすでにピロリ菌に感染しているため、弱った胃粘膜にピロリ菌が取り付いて潰瘍が胃粘膜深くにまで及び、胃全体に広がることです。
日本人の胃がんの90%以上がピロリ菌が原因といわれるため、注意が必要です。
(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)
内視鏡医が見た12月の胃袋