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粉山椒は鮮烈な香りの石臼挽きを デトックス効果が

粉山椒を使った牛肉とゴボウのまぜご飯(右)とレンコンサラダ
粉山椒を使った牛肉とゴボウのまぜご飯(右)とレンコンサラダ(C)日刊ゲンダイ
和の香辛料(2)粉山椒

 粉山椒はうなぎのかば焼きに使う香辛料として知られていますけど、多くの料理と好相性です。中でもすき焼きなどの甘辛いものや油分の含まれているものとよく合います。さわやかでピリッとする香りが味を引き締めてくれるからです。

 1品目は牛肉とゴボウのまぜご飯です。牛肉とゴボウの煮汁はだしを利かせて塩分を控え、粉山椒は味付けしたまぜご飯に散らします。

 2品目は山椒マヨネーズを使ったレンコンサラダです。粉山椒はマヨネーズの油分と合わせることで味が締まります。塩分はマヨネーズによるものだけです。

 どちらの料理も山椒と合いますし、清涼感ある独特の香りが控えた塩分を補い、食欲を増してくれます。

 わたしが使っている粉山椒は和歌山県産の「ぶどう山椒」の実を石臼で挽いたものです。ぶどうの房のように大粒の実をたくさんつけることからそう呼ばれていて、樹高が低く、枝には小さなトゲがあります。機械挽きだと熱が発生して風味が落ちますけど、石臼で挽いたものは特に香りが鮮烈です。

 山椒は実だけでなく若芽、葉、花も香辛料として使えますし、枝も抗菌作用があってすりこぎとして利用できるなど非常に重宝する木です。実から作られる粉山椒には新陳代謝を高め、体にたまった老廃物を排出するデトックス効果、冷え性改善作用などがあります。

■牛肉とゴボウのまぜご飯

《材料》 
◎炊きたてのご飯 米2カップ分(やや硬めに炊くと良い)
◎牛もも肉薄切り 100グラムを1センチ幅に切る
◎ゴボウ 20センチを2本分(皮ごとよく洗い、ささがきに)
◎だし 1カップ
◎酒 大さじ3
◎みりん 大さじ2
◎薄口しょうゆ 大さじ1と2分の1
◎粉山椒 適宜

《作り方》
(1)小鍋にだしと酒を沸かし、牛肉とゴボウを加えて煮立てて、アクをすくう。
(2)みりんを加え3分煮たら薄口しょうゆを入れてさっと煮立てて火を切り、粗熱を飛ばす。
(3)ストレーナー(金属製のざる)などで具材と汁を分け、炊きたてのご飯に具材をまぜ、加減を見て煮汁を大さじ2~3加えて蒸らす。器に盛り、粉山椒を好みで散らす。

■山椒マヨネーズのレンコンサラダ 


 レンコン中1節の皮をむき、5ミリ厚さで一口大の乱切りにして、米酢を少量加え、沸騰させた湯でゆでる。平ザルに上げ、水気を切り、マヨネーズ約4分の1カップに粉山椒大さじ1を合わせたソースで和えたら味見をする。冷蔵庫で30分置くと味が馴染む。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

石臼で挽いた粉山椒。特に香りが新鮮
石臼で挽いた粉山椒。特に香りが新鮮(C)日刊ゲンダイ
辛味成分のサンショオールに消化促進作用

 山椒と聞いただけで、あの香ばしい香りを感じるとともにとても懐かしい思いにとらわれる。

 生物学者になるずっと前、私は昆虫少年だった。いつも近所の垣根や植え込みを回って山椒を探していた。山椒はアゲハチョウの幼虫の食草だからである。

 山椒の葉は可憐で美しい。そこに黄金の粒のような卵が産みつけられている。私はそれをそっと持ち帰り大切に育てた。さなぎから蝶がこぼれ出てくる様子は自然の奇跡といってよかった。アゲハチョウは山椒の他に、ミカンやカラタチの葉っぱも食べる。実は、これらは同じ仲間だからである。山椒はミカン科で、あの香ばしい匂いは柑橘系。蝶もそれにひかれているのだ。

 さて、私たちがうな重にかける粉山椒は熟した実の果皮を乾燥させて粉にしたもの。辛味成分はサンショオールと呼ばれる特有のアルコール。ピリピリと辛いだけでなく、舌がじ~んとしびれたような刺激を受けるのが粉山椒の特性だが、これはサンショオールに局所麻酔作用があるためである。胃腸を刺激し、消化活動を促進するとされる。さわやかな香り成分はシトラネロール(シトラス=柑橘系)。残念ながら山椒の有効成分は空気にふれると寿命が短く日持ちがしない。これが同じ香辛料でも唐辛子(カプサイシン)とは違うところ。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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