Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

池江選手が退院 白血病治療のカギ握る移植前処置の重要性

退院した池江璃花子選手
退院した池江璃花子選手(C)日刊ゲンダイ

 無事に退院されて何よりです。競泳の池江璃花子選手(19)が、白血病による入院生活を終え、2024年のパリ五輪に向けて歩み始めたことが報じられました。マネジメント会社によると、正式の病名は急性リンパ性白血病。小児がんのうち、15歳未満は4割、15~19歳のハイティーンは24%が白血病ですから、池江さんのような若い方に白血病は珍しくありません。

 さらに急性白血病では、小児の8割が急性リンパ性とされますが、発表当時の18歳だと、2割の急性骨髄性の可能性も少なくありませんが、急性リンパ性だったのは不幸中の幸いでしょう。8割以上が完治するというデータの通り、池江さんもプールに戻ってくることができましたから。

 治療は、「化学療法による治療を行いましたが、治療期間中に合併症を併発したため化学療法の継続が困難となり造血幹細胞移植を行いました」とのこと。造血幹細胞は、骨髄にあって、赤血球、白血球、血小板に分化する性質があります。抗がん剤では治療が難しいとき、完治を目指して行うのが造血幹細胞移植です。

 移植する細胞は、患者さんに適合する型の細胞を持つ人を探します。まず家族で、家族に見つからなければ、骨髄バンクで探すことに。細胞を提供するドナー探しも大変ですが、新しい正常細胞をしっかり患者さんに根づかせるために行う移植前処置も困難です。

■成功で血液型が変わる人も

 移植前処置の目的は、腫瘍細胞を減少させ、患者さんの免疫細胞を抑えること。免疫細胞が活発だと、新しい正常細胞がきちんと根づかないのです。一般には、複数の抗がん剤を併用するため、副作用が強く、嘔気や倦怠感、脱毛はよく見られます。

 池江さんも「思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどいです」とツイートしていたように移植前処置は、とにかくつらいのですが、これなしに移植は成功しません。とても重要です。

 場合によっては、放射線の全身照射(12グレイ)を行うことも。

 白血病細胞と同時に正常な骨髄細胞も併せて叩くことで、新しい骨髄が根づきやすくなります。池江さんも、ひょっとすると受けたかもしれません。

 移植を行うと血液型が変わることがあります。それで、患者さんがA型からO型になっても、きちょうめんな性格が大ざっぱになるなど一般にいわれているような血液型に伴う性格が変化することはありません。

 移植に伴う体力の低下は相当ですが、白血病を克服して現役復帰したアスリートは少なくありません。今年は、J2新潟の早川史哉選手が白血病による戦線離脱から3年7カ月ぶりにピッチに戻ってきました。池江さんのパリ五輪でのメダル獲得が楽しみです。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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