おせちは食塩と糖質の宝庫…糖尿病や高血圧症の人は要注意

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 正月は朝から家族でおせち料理を囲んでいる人も多いだろう。しかし、血糖値や血圧が高い中高年は要注意だ。「食塩」と「糖質」が多く含まれているからだ。どれほどの量が含まれているのか? 愛国学園短期大学非常勤講師で栄養士の古谷彰子氏に聞いた。

 おせち料理は1年の始めに来られる歳神(としがみ)様に供える料理で、豊作や家族の繁栄を願う特別な料理。縁起物の食材が並ぶ。諸説あるが、黒豆は「まめ(=達者・健康)に暮らす」との願いが込められ、巻物の形に似た伊達巻きは、文化の発展や学問の成就を願う料理だ。稲の肥料に用いられたイワシを甘辛く味付けた「田作り」は、豊作・豊漁を連想させる一品で、「栗きんとん」は“金団(きんとん)”という漢字が当てられることもあり、「財を成す」ことに結びついているとされる。

「その一方でおせち料理にはお正月の間料理から解放し、主婦に休んでもらう意味もあります。そのため、保存性が高まるよう、食塩や砂糖(糖質)がふんだんに使われており、濃い味付けになっています。そのため血糖値や血圧が高い人は食べ過ぎないよう注意が必要なのです」

■食塩は1日の推奨値の3倍

 お節料理は各家庭により味付けに違いがあり、食べる量にもよるが、主なおせち料理一人前の食塩と糖質の目安はざっと以下の通りとなる。

●田作り(10g=0.7g、3g)●栗きんとん(40g=0.1g、21.4g)●昆布巻き(30g=1.7g、8.4g)●黒豆(20g=0.2g、16.5g)●伊達巻(2切れ=1.0g、11g)●数の子(25g=0.6g、1.58g)●かまぼこ(2切れ=0.6g、2.2g)●紅白なます(30g=0.2g、9g)●筑前煮(一皿=1.84g、17.47g)

 さらに関東風の雑煮(0.97g、26.32g)が加わると1食あたりの塩分は計7.91g、糖分は116.87gとなる。3食食べ続けると食塩は23.73g、糖質350.61gとなる計算だ。

 一方、2020年に改定予定の「日本人の食事摂取基準」では、1日あたりの食塩の目標摂取基準は18歳以上の男性で7.5g未満、同じく18歳以上の女性は6.5g未満。つまり、おせち料理一食あたりで1日に必要な食塩相当量を摂取し切ってしまっているということだ。1日2000キロカロリーを必要とする男女は、活動量の誤差はあるが、ともに1日に300g程度の糖質の摂取が望ましいとされている。こちらも1日の推奨量を16%も上回ることになる。

「これ以外にもおせち料理には海老や卵などがありますから、実際はさらに食塩、糖分過多になります。お酒を飲むと食欲も増しますからね」 いま流行りの減塩、糖質半減のおせち料理を利用していても量を食べれば食塩、糖分過多からは逃れられない。血糖値が高い人や糖尿病の人は「甘い」栗きんとんや黒豆などは警戒するだろうが、意外に見落とされがちなのはかまぼこだ。「白身魚は高たんぱくで低脂肪なため、それを材料にしている蒸しかまぼこはヘルシーなイメージがありますが、つなぎにでんぷんや硬くなるのを防止するために砂糖をそして、調理工程上食塩も多く(2〜6%)使っているので予想以上に糖質と食塩が多いのです。また、お餅はご飯一杯分の糖質が入っているので、朝昼晩食べると結構な量になります」

 そもそもなぜ、血糖値や血圧が上がると危険なのか? 「食塩は、ナトリウム(Na)とクローム(塩素:Cl)からできていて、ナトリウムは体液の浸透圧の調節や、筋肉の収縮・弛緩、神経の情報伝達、栄養素の消化・吸収などさまざまな機能を担っています。過剰摂取するとナトリウム濃度を薄めるために水分を増加させます。これによって体がむくんだり、体内の血液量が増えて血圧が上がったりするのです」 高血圧でパンパンに膨れ上がった血管は弾力を失って硬くなり、圧力に耐えるため血管壁が厚くなって血液が流れる内腔が狭くなる。これが動脈硬化で、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高まることが知られている。

 糖質を取り過ぎて血糖値が上がると、エネルギーとして使われない分の糖分は脂肪として体内に蓄積され、肥満などの原因となる。これらは長期的な影響だが短期的に怖いのは、糖尿病や糖尿病予備軍の人は血糖値が急激に上がった後に急激に血糖値が下がり、低血糖になることだ。そうなると起きている間は血糖を上げるために空腹感を感じて目の前のおせち料理に再び手を出すという悪循環に陥り、ますます血糖が高くなる。一方、寝ているときは自覚のないまま低血糖となり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まることになる。もちろん、おせち料理を食べ続ければ血圧も上がる。その状態で入浴すると今度は急激に血圧が下がってふらついて、お風呂で倒れたり、部屋でつまずいて足を骨折したりすることもある。実際、正月期間中の救急車の出動原因はお風呂での事故や家庭内でのケガが多いのだ。

 だからといって年に1度の縁起物の膳に箸をつけないのは味気ない。どうすればいいのか?

「おせち料理とともに、野菜類や豆類、果物類をたくさん食べることです。これらが多量に含むカリウムには、ナトリウムを尿と一緒に体外へ排せつする体の調節機能を促進する働きがあるからです。また、おせち料理の一食分を少なくするか、毎食食べないようにするといいでしょう。雑煮も野菜を多くよそおってもらい、お餅は1食のみとして汁を飲み干さないようにするといいでしょう」

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