がんと向き合い生きていく

ふさぎ込んでいた乳がん患者を前向きにさせた実家での出来事

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 最後の抗がん剤治療が終わると、Sさんは弟に連絡して久しぶりに田舎に帰ってみました。お花を持って、弟が先祖代々のお墓に車で連れて行ってくれました。

 お墓のそばにある桜はすでに咲き始めています。「乳がんはステージⅡBだから死ぬことはない。大丈夫」と思いながらも、手を合わせて心の中で父母にこう話しかけました。

「今度は私がそちらにお世話になりますので、よろしくお願いします」

■「見守っている」と言われている気がした

 弟は、「久しぶりに裏山の風穴に行ってみるか?」と誘ってくれました。中学生の時に遠足で訪れて以来です。

 山の方へ向かって約30分、途中、ユキヤナギの白い花が山道を飾っていました。車を降りてしばらく歩くと、一面、緑の大きなくぼ地があります。座って穴に顔を近づけると、風が吹いてくるのが分かりました。Sさんは手術した右側の手をかざして祈りました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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