Dr.中川 がんサバイバーの知恵

ワッキーが告白した中咽頭がん HPV陽性タイプは治りやすい

ペナルティのワッキーさん
ペナルティのワッキーさん(C)日刊ゲンダイ

「自分の喉に癌がみつかり、中咽頭癌のステージ1と先生から伝えられました(原文ママ)」

 今月7日、自らのツイッターに中咽頭がんを告白したのは、お笑いコンビ「ペナルティ」のワッキーさん(47)です。報道によると、抗がん剤と放射線を組み合わせた化学放射線療法を受けるため、翌8日から7月末まで入院するそうです。

 がんの進行度は、一般に原発巣の大きさやリンパ節転移の有無、遠隔転移の有無で判定します。中咽頭がんは、さらに発がん原因も加味して考えるのです。

 その発がん原因とは、HPV感染の有無。HPVとは、ヒトパピローマウイルスで、子宮頚がんの原因ウイルスとして知られます。実は最近、HPV感染による中咽頭がんが、世界的に注目されているのです。

 中咽頭がんは、かねて飲酒や喫煙などで発がんリスクが上昇すると考えられていました。市立船橋サッカー部出身で、サハラ砂漠の250キロマラソンを完走するなどスポーツマンとして知られるワッキーさんは、酒はたしなむ程度で、たばこは吸わないそうです。

 報道によると、4月上旬に首にしこりのようなものを感じて受診したそうで、リンパ節への転移が疑われます。転移の事実は公表されていませんが、もしそうだとすると重要なことが見えてくるのです。

 ここからあくまでもリンパ節転移があった場合の一般論として話を進めます。リンパ節転移ありでステージ1なのは、HPVというウイルス感染の有無が影響しているのです。

 HPVに感染していなくてリンパ節転移がある中咽頭がんはステージ3以上になります。ところが、HPVに感染している場合は、原発の中咽頭がんが4センチ以下、リンパ節への転移が6センチ以下でリンパ節の外に広がっていなければ、ステージ1と分類されます。

 ステージ3と1では、大きな違いですが、それが意味するところは、HPV感染がある中咽頭がんは、化学放射線が効きやすく、治りやすいということなのです。

 咽頭がんや喉頭がんの手術では、嚥下や咀嚼、発声など生活に重要な機能が損なわれる恐れがあります。音楽プロデューサーのつんく♂さん(51)は、生きるために喉頭がんを手術で克服したことは大きな反響を呼びました。記憶に新しいでしょうが、化学放射線療法なら、発声の機能を守ることができます。俳優の村野武範さん(75)や音楽家の坂本龍一さん(68)も、声を失うことなく、仕事に復帰されています。

 多くの研究で、化学放射線療法は、手術と同等かそれ以上の治療成績であることが証明されています。HPV陽性の中咽頭がんでは、この事実は見逃せません。

 HPVはセックスが媒介するウイルスです。膣に感染するのが子宮頚がんで、喉に感染するのが中咽頭がん。その2つを結びつけるのは、オーラルセックスですから、女性の経験人数が多いほどリスクは増します。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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