病気を近づけない体のメンテナンス

口<下>専門医が教える歯と歯茎を丈夫にする5つの習慣

デンタルフロスは1日1回でも
デンタルフロスは1日1回でも(C)PIXTA

 口の老化が進むと、「唾液力」「咀嚼力」「のみ込み力」が低下し、食べる機能が低下する「オーラルフレイル(口の虚弱)」から、「フレイル(全身の虚弱)」に広がってしまう。

 その対策として、前回は「噛みトレ」と称する3種類のトレーニングを紹介した。

 東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニック(東京都中央区)の新谷悟院長が言う。

「口の老化を防ぐには『噛みトレ』だけでも効果が期待できますが、余裕がある人は次の5つの習慣も心がけてみてください。歯と歯茎を丈夫にして、お口の健康をさらに高めることができるはずです」

■デンタルフロスを使った歯の手入れ

 歯の手入れは毎日が基本。1日でも歯の手入れを忘れると、虫歯や歯周病の原因がつくられるからだ。

「私たちの食べる物のほとんどに、糖分が含まれています。口の中に残った糖分は、歯の表面や周囲に付着します。すると、8時間後にはその糖分を目指して集まってきた細菌によって、プラーク(歯垢)がつくられ始め、約24時間で完成します。その後、約48時間で石灰化が始まり、歯石になるのです。歯石になってしまうと、歯ブラシでは取り除けません」

 歯の手入れといえば、日本では歯ブラシを使った「歯磨き」が普通だが、欧米では「デンタルフロス」と「マウスウオッシュ」がメインになるという。新谷院長は、最初にフロスを使った手入れをすることを習慣にしてもらいたいという。手入れをしながら虫歯や歯周病のチェックができるからだ。

 ちなみに「フロス」とは、細いナイロン繊維からできている糸で、歯ブラシの毛先が届きにくい歯と歯の間(歯間部)の掃除に使う。糸巻きタイプとホルダータイプの2種類がある。

「使い方は、まずフロスを歯間にぐっと入れて、一方の歯の側面に沿うように引き上げます。次に、もう一度同じ歯間にフロスを入れて、今度は反対側の歯の側面に沿って同じように引き上げます。引き上げるときに引っかかれば虫歯で、出血があれば歯茎が炎症を起こしているので歯周病の可能性があります」

 できれば朝、昼、夜の1日3回行うのがいいが、面倒なら朝だけ、夜だけと、1日1回でも構わない。歯の手入れは、最初に「フロス」で汚れを落とし、次に「歯磨き」、そして最後に「マウスウオッシュ」を使うのが理想という。

■舌上げストレッチ

 スプーンを使って、舌周りの筋肉を簡単に鍛えることができる。舌の筋肉が強くなると、唾液力、咀嚼力、のみ込み力がアップするだけでなく、滑舌の悪かった話し方も改善するという。やり方はこうだ。

①舌を軽く出し、舌の先の方に、手に持ったスプーンの裏側を当てる。②手で押さえたスプーンを舌の力だけで持ち上げ5秒キープする。これを5回繰り返す。

■リズミカルに噛む

 食べ物をよく噛んで食べることは、唾液の分泌を促し、口や顎周りの凝り固まった筋肉をほぐす効果がある。さらに、リズミカルに噛むことを意識すると、脳にもいい効果がある。心の安定に欠かせない脳内の神経伝達物質「セロトニン」の分泌が増えるのだ。

「セロトニンの分泌を促す方法として、朝、太陽の光を浴びることがよく知られていますが、一定のリズムで筋肉の緊張と弛緩を繰り返す『リズム運動』もそのひとつです。体を動かさなくても、リズミカルによく噛んで食べることもリズム運動になるのです」

■ガムや昆布を噛んで筋肉をほぐす

 食事だけでなく、普段、ガムを噛むことも唾液の分泌を促し、口と顎周りの筋肉をほぐす効果がある。しかし、糖分はプラークをつくる原因になるので、ガムを噛むなら甘味料に「キシリトール」を使ったものを選ぶようにしよう。また、「酢昆布」や「だし昆布」を噛むこともおすすめ。昆布には、うま味成分が豊富に含まれ、口に含むだけで唾液がどんどん出てくる。そして、噛めば噛むほどおいしくなるので、口の老化を防ぐ理想的な食材だ。

■上下の歯の接触を減らす

 人は1日(24時間)のうちに、上下の歯が接触している時間は約20分程度が正常。食べ物を噛むときに、瞬間的に接触させるだけだ。しかし、仕事中やパソコン操作中に、上下の歯を無意識に接触(噛みしめ)させてしまう人がいる。これを「歯列接触癖(TCH)」という。TCHがあると、顎周りの筋肉を硬直させたり、顎関節症の原因になる。歯の接触に気づいたら、すぐに離すように心がけよう。

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