定年を越えて働きたいなら40代から「補聴器」を勉強すべき

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 悠々自適な老後なんて夢のまた夢。働く人の多くは、減り続ける年金額に死ぬまで働き続けざるを得ないのが現実だ。もし、あなたが定年後長く働きたいなら40代から定期的に聴力検査を受け、場合によっては補聴器について勉強しておくべきだ。自覚しにくい聴力の低下は働く能力を損ない、周囲の評価をおとしめることになりかねない。しかも、難聴を放置すると、認知症リスクを高めることになる。

 人は加齢とともに肉体的な能力は低下する。足腰が弱り、目も見えづらくなる。耳も同じ。年齢以外に特別な原因がなくても周囲の音が聞こえづらい「加齢性難聴」になるのは自然なことだ。(社)日本耳鼻咽喉科学会認定専門医で、「慶友銀座クリニック」(東京・築地)の大場俊彦院長が言う。

「加齢性難聴は高音域から始まります。個人差が大きく、40歳代から明らかに聴力低下を来す方もいますが、一般的には50歳ごろから始まって定年時期の65歳を越えると急に増加します。頻度は60歳前半で5~10人に1人、60歳代後半で3人に1人、70歳以上では7割以上といわれています」

 加齢性難聴の原因は耳の奥にある、蝸牛と呼ばれる中枢器官にある有毛細胞が障害されることで起きる。

「音は外耳から入って内耳にある蝸牛のリンパ液が振動して有毛細胞が刺激を受け、音を電気信号に変えて脳に伝達します。しかし、有毛細胞は20歳くらいから少しずつ減少する。とくに外耳に近い、高音域をキャッチする有毛細胞から減少していくために、高い周波数の音域から聞こえづらくなるのです」

 残念なことに有毛細胞はいったん壊れると二度と再生しない。そのため、加齢性難聴になると、一般的には音を増幅する補聴器で補うしかなくなる。

「かつての日本では現役世代では補聴器の話題はほとんどなされませんでした。定年前の50代になると、『窓際族』に代表されるように、職場で重要な仕事を任されなくなったことと、加齢性難聴を自覚する人が少なかったからです。しかし、これからはそうはいきません。若い人と同じように働かないと雇用は守れません。その能力を維持するには老眼対策とともに加齢性難聴対策も必要になるのです」

■放置すると認知症リスクが高まる

 日本人はあまりイメージがないかもしれないが、米国では働く人の補聴器は当たり前だ。それは、米国で雇用の基礎となる法律として「雇用機会均等法(EEO)」があり、人種、肌の色、宗教、性別、国籍、身体障害、遺伝情報と並んで年齢が差別の対象とされているからだ。求人する際、雇用する側に「年齢」を条件とすることは差別とする。その代わりに、雇われる側は年配者といえども若い人と同様の能力を求められる。そうでなければ職にありつけない。

「ですから、米国では若くから補聴器をつける人が多い。1993年に第42代米国大統領に就任したビル・クリントン氏も51歳から補聴器を装着していました」

 とはいえ、補聴器なんて格好が悪い、それこそ若い人から職場で差別されるのではないか、と思う人もいるかもしれない。しかし、重要な商談や会議で聞き間違えて誤った判断をすれば会社に損害を与えるばかりか、あなたのせっかくのキャリアが台無しになるかもしれない。

 そのうえ、加齢性難聴を放置すると将来、やっかいな病気になるリスクが高くなることもわかっている。

「それは認知症です。難聴と認知症発症に相関関係があることがわかっています。2017年に世界的権威のある医学論文雑誌のランセットが国際委員会を開催し、医学的介入により認知症発症を予防できる要因として難聴が筆頭にあげられました。認知症や認知症以外の不利益に関し、難聴が関連しているという報告が積み重ねられ、健康寿命の延伸のために中年期以降の聴力維持は重要性が増しています」

 つまり、難聴を解決することは認知症の予防につながる可能性があるということだ。

「中には『自分は会社などの健診で聴力検査を受けてパスしているから大丈夫』と考える人もいると思います。しかし、日本の健診での聴力検査は1000ヘルツと4000ヘルツを測ります。人の会話音域は500~2000ヘルツで、言葉の聞き取り検査は行っていないので、会社の健診の聴力検査をパスしたからといって会話に不都合がないわけではないのです」

 あなたは大丈夫?

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