科学が証明!ストレス解消法

考えれば考えるほど人のための行動を取れなくなるのはなぜ?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 人から仕事やお願い事を頼まれるとノーと言えない、あるいは、仕事をお願いしたいのに「申し訳ないな」と思ってしまい頼むことが苦手……。こういった人は少なくないのではないでしょうか?

 玉川大学の坂上らは、思考を重視すると利他的な行動が取れなくなるという実験(2016年)を行っています。それによると、考えれば考えるほど人のための行動が取れなくなる傾向があるとのこと。

 実験内容を端的に説明すると、お金のやりとりをするゲームを用いて、利他的な行動を取るケースと、利己的な行動を取るケースでは、脳にどのような変化が表れるかを調べました。

 活動を見る箇所は2つ。大脳新皮質の一部である背外側前頭前野と、大脳辺縁系の一部である扁桃体です。前者の大脳新皮質とは理性をつかさどる新しい脳。冷静かつ合理的に考えるための機能を持ち、いわば“考える脳”といえます。

 一方、扁桃体を含む大脳辺縁系とは、多くの生物が持つ原始的な脳であり、感情や欲求といった本能をつかさどっています。この2つを比べ、脳の活動からどう利他心が起きるかを観察したのです。

 その結果、利己的、つまり自分の利益を優先する傾向が強い人は、背外側前頭前野(考える脳)が、扁桃体(本能の脳)より大きいことが分かりました。半面、協力をいとわない利他的な人は、扁桃体の方が大きく、活発化していたといいます。本能的かつあれこれ思考を張りめぐらさない人ほど、協力的な人だったというわけです。

「ノーと言えない」「お願いするのが苦手」という方は、押しに弱い性格を弱点と考えるのではなく、利他的、協力的、つまり“武器”として考えてみてください。いざというとき協力できる、人のためを考えられる能力の持ち主なのです。

 そして、仕事を押し付けてくる人をよく観察してみるように。普段から自分だけではなく他の人に対しても協力的でないのであれば、何事も損得勘定で考えてしまう傾向の強い、自分のことしか考えない人……という可能性大。そんな人に、協力的なあなたがあれこれ考え、無駄に協力するのはもったいない。協力傾向が強い人は、本能的に行動する扁桃体が発達しているのですから、心の底から「無理です」と伝えれば、大きな効力を発揮するかもしれませんよ。

 脳の活動は、日々の生活習慣などで活動する場所が変わり、そして活動する場所ほど大きく発達するといわれています。考える脳が大きくても、自分のことしか考えられなくなっているのであれば、宝の持ち腐れですよね。もし、自分が利己的だと自覚するなら、あまり損得を必要としないアクションを取ってみる。例えば、定期的にボランティア活動に参加すれば、脳の活動が偏らなくなっていくはずです。

「智に働けば角が立つ 情に棹させば流される 意地を通せば窮屈だ とかくに、人の世は住みにくい」とは、夏目漱石の「草枕」の冒頭です。

 “人の世は住みにくい”を“仕事は難しい”に変えても、さほど違和感がありません。仕事はチームプレーですよ。


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堀田秀吾

堀田秀吾

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

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