知っておきたい新型コロナウイルスと「腸」の深い関係

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 新型コロナウイルスの第4波はいまだ収束の出口が見えない。感染力が強く重症化リスクも高いといわれるインド株の感染が拡大するなど、警戒レベルがさらに上がっている状況を乗り切るカギは「腸」にあるという。日本消化器病学会専門医で、「まいにち腸日記」の著者でもある江田証氏(江田クリニック院長)に詳しく聞いた。

 新型コロナウイルスは、細胞表面にある「ACE2受容体」というレセプターに結合することで細胞内に侵入する。ACE2受容体は、気道や肺だけでなく「腸管」でも多く発現し、生体内では小腸の上皮細胞にもっとも多くACE2受容体が存在するといわれている。

 中国で、入国する外国人を対象に肛門=直腸から採取した検体によるPCR検査が実施されていたのも、腸管で感染した新型コロナウイルスが多いことがわかっていたからで、中国の研究者は「新型コロナウイルスの痕跡を検知可能な時間が気道より肛門の方が長いため確実に検知できる」としていた。実際、咽頭では消失した新型コロナウイルスが腸管で見つかったケースも多く報告されている。つまり、腸は感染の大きな“入り口”であり、ウイルスの“活動エリア”なのだ。

 だからこそ、腸内環境を整えることが感染予防や重症化を抑えるために重要になる。

「腸はわれわれの免疫システムの中心的な役割を担っていて、免疫細胞の約70%が腸に集まっています。腸内にウイルスなどの病原体が入ってくると、小腸の中のパイエル板という免疫組織にあるM細胞が病原体を取り込み、さらに樹状細胞が病原体を分解してヘルパーT細胞に伝えます。ヘルパーT細胞が病原体と判断した場合、B細胞に抗体を作るように指令を出し、産生された抗体は体内や腸管の粘液に分泌されて、感染や発症を抑える働きをしているのです」

 腸内環境が悪化すると、この免疫システムがうまく機能しなくなり、免疫力が低下してしまうのだ。

■バリア―機能の低下が重症化につながる

 また、腸が担っているウイルスなどの病原体を「侵入させない機能」も腸内環境が悪化すると低下してしまう。

「腸には『タイトジャンクション』と呼ばれるバリアー構造があります。隣り合っている腸の上皮細胞が密着結合して、病原体や未消化の栄養素などが腸の中に侵入するのをブロックしているのです。しかし、コロナウイルスに感染するとタイトジャンクションが障害され、粘膜組織の間に隙間ができてしまいます。すると、その隙間からウイルス、細菌由来の毒素などが血管内に漏れ出す『リーキーガット症候群』と呼ばれる腸の透過性亢進状態になり、血栓症をはじめとするコロナ感染症の重症化につながることが分かってきました」

 新型コロナウイルスの侵入をブロックしたり、重症化を防ぐには腸内環境の改善が欠かせない。そのために考えるべきは腸内細菌のバランスだ。

「体内には1000種類以上、100兆個以上の腸内細菌がいるといわれ、これら全体を腸内細菌叢と呼んでいます。ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌、大腸菌などの悪玉菌、どちらにも属さない日和見菌の3つのグループがあり、その種類が多いほど良い状態とされています。その多様性が失われると、腸のバリアー機能が衰えて免疫力が低下するといわれています」

 腸内細菌叢のバランスを整えるには、まず食事に気を配りたい。

「ヨーグルトや納豆などの発酵食品には乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌が含まれています。善玉菌のエサになって増殖を助ける食物繊維も意識して摂取しましょう。大豆などの豆類やゴボウやカボチャなどの根菜類、ライ麦や玄米などの穀類に多く含まれます。また、腸管バリアー機能を落とす高脂質・高カロリーの食事はなるべく控える方がいいでしょう。さらに緑茶成分であるエピガロカテキンがコロナウイルスの接着を抑えるというM・F・ハンらの報告がありました」

 香港の研究によると、新型コロナウイルス感染者は、腸内にビフィズス菌など数種の善玉菌が不足していて、善玉菌の不足は重症度と関連していたという。コロナ禍を無事に乗り切るためには腸を意識すべし。

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