進化する糖尿病治療法

医師の「とりあえず様子を見ましょう」に納得してはいけない

写真はイメージ
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 血圧は、どれくらいまで下げるべきか? 前回取り上げたテーマです。

 2019年に5年ぶりに改定された高血圧治療ガイドラインでは、高血圧の診断基準はこれまでと変わらない140/90㎜Hg(診察室血圧)。今まで「正常高値血圧」とみなされてきた130~139/85~89㎜Hgは「高値血圧」となり、拡張期血圧(下の血圧)は5㎜Hg引き下げられ、80~89㎜Hgとなりました。

 また、これまでは、高血圧患者だけが降圧薬治療の対象でしたが、高値血圧に対しても、生活習慣指導で十分に血圧が下がらない場合は、薬での治療が推奨されるようになりました。

 大幅に引き下げられたのは、「目標値」です。75歳未満の場合、140/90㎜Hg未満から収縮期・拡張期血圧がともに10㎜Hg低い130/80㎜Hg未満へ、75歳以上の後期高齢者では150/90㎜Hgから140/90㎜Hgへと変わりました。

 しかし、みなさんはそもそも、ご自身の血圧を把握しているでしょうか? 古いデータになりますが、「NIPPON DATA 2010」などの調査によると、日本の高血圧病者数4300万人のうち、57%しか治療を受けておらず、治療を受けている患者の50%しか基準血圧(当時)の140/90㎜Hg未満にコントロールされていない。

 高血圧の人ですらそうなのですから、健診を受けていない人や、基準値を超えていて再検査と言われたけど病院に行っていない人は、血圧を把握していない人が大半だと思います。家庭用血圧計をぜひ1台購入し、毎日決まった時間、決まった条件での血圧測定を始めていただきたい。

 血圧は、季節や時間帯で数値が変わります。年1回の健診で正常血圧でも、現在の血圧もそうとは限りません。特に、健診の時期が春先の場合、血圧は秋冬の方が春夏より高くなりがちですから、数値が変わっている可能性が考えられます。だからこそ、家庭での血圧測定が大事なのです。

 数値はできればノートに記録しておき、基準値(家庭での血圧の基準値は135/85㎜Hg未満)を超えたり、基準値は超えていないけれど数値が上昇傾向にあるようなら、内科で相談することを勧めます。その際、医師から「とりあえず様子を見ましょう」「この次も数値が高かったら何か考えましょう」といった言葉が出たら、少し注意が必要です。

 最近、よくいわれているのが「clinical inertia」という言葉です。前出の2019年の高血圧治療ガイドラインでは、日本高血圧学会が「臨床イナーシャ」という言葉を当てています。

 高血圧や糖尿病の診察では、治療目標に達成していなかったり、数値が多少高かったりしても、治療内容を見直さず「とりあえず様子を見ましょう」「とりあえず今日は同じ薬を出しておきましょう」となりがち。しかしこれでは、適切な治療になりませんし、治療開始の遅れ、将来的には合併症の発症のリスク増大につながりかねません。

 薬は安易に出すべきではありませんが、その判断は慎重にすべき。生活習慣の指導をはじめ、数値を下げるためのなんらかの「手だて」を提示してくれないようなら、別の医師にかかった方がいいかもしれません。

 血圧は、高くても自覚症状がありません。放置すれば心血管疾患のリスクを上昇させます。また将来の認知症のリスクにもつながることから決して軽視できないのです。

 なお、低血圧に関しては、体質によるものなら特に気にしなくて大丈夫です。

 しかし薬で低血圧になっているようなら、ふらつき、めまいなどの原因になるので、薬の変更を検討すべき。やはり医師に相談を。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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