コロナ禍でも注目 最新医療テクノロジー

開発が進む「てんかん発作予知AIシステム」の仕組みと精度

名古屋大学大学院工学研究科の藤原幸一准教授
名古屋大学大学院工学研究科の藤原幸一准教授(提供写真)

 突然意識を失い、けいれんするなどの発作が起こる「てんかん」。国内の有病率は1000人に5~6人(推計60万~100万人)といわれ、乳幼児から高齢者のすべての年齢層で発症する。てんかんのある人のうち70~80%は、薬や外科治療などにより発作を抑制(コントロール)できるが、残りの20~30%の人は治療しても発作が止まらない難治性だ。

 発作が起こると、時と場所によっては大きなケガや事故につながる恐れがある。しかし、発作が起こる数秒前でも本人や周囲の人が兆候を検知することができれば、発作までに身の安全を確保できる。

 そんな、てんかん発作をAI(人工知能)によって予知するシステムの開発が進められている。

 てんかんは脳の病気なので、その診断には主に脳波のモニタリングが行われる。このシステムでは、どんなデータを使って予知するのか。代表研究者である名古屋大学大学院工学研究科の藤原幸一准教授が言う。

「脳波の代わりに心電図のデータを用いています。てんかん発作が起こる前に82%の患者さんは心拍数が変化することが分かっています。また、自律神経機能との関係で、心拍と心拍の間隔にも変化が起こることが報告されています。これらの心拍変動(HRV)をリアルタイムで、継続的にモニタリングすることで発作を予知します」

 具体的には、シャツやバンド、ばんそうこうのようなものなどに心電計センサーが付いていて、患者はそれを日常的に身に着けておく。そして、その心拍データはブルートゥースで常時スマホに送信され、アプリ内のAIで解析される。発作の兆候が検出されるとアラームが鳴る仕組みだ。

アプリ画面
アプリ画面(提供写真)
スマホで兆候を警告

 このAIは「異常検知」というアルゴリズムで解析している。実際のてんかん発作前の患者の心拍データは集めにくいので、AIに学習させているのは発作がないときの患者のデータが中心になる。複数の病院に協力してもらい、実際の発作前後の患者のデータも参考にしているという。

「アプリは最低限の機能は完成しています。AIの方は、もっとデータを集めてさらに性能を上げていく必要があります。精度は、感度80%前後が目標です。いくつかの製薬会社が発作前に服用する抗てんかん薬の開発を進めているようですので、予知システムと組み合わせることで難治性の発作をかなり制御できると考えています」

 このシステムは日本医療開発機構の「医工連携・人工知能実装研究事業」に採択されていて、2024年までに治験を開始する予定という。

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